第3章 闇の姫君〜アズカバンの囚人 下編〜

第80話 ページ34

久しぶりに訪れるからだろうか

見慣れた景色だというのに
どこか初めてのような気さえしてくる

おまけに緊張で手先が冷え
胸は早鐘を打つかのように拍動していた



───────なんて言おうか



そんなことばかりが頭の中を埋め尽くす
扉を開けなければ始まらないと分かっていても

いざその時となれば

覚悟などあってないようなものであると
気付くのが大抵直前なのは

私の覚悟の弱さ故かもしれない


『……失礼します』

久々に嗅ぐ
色々な魔法薬が混ざった

爽やかなようで甘いような
どこか苦味にも似た不思議な匂いが

この場が何も変わらないことを教えてくれる


「……体調はもういいのか??」

振り返らずにそう言葉が飛んでくる


『はい、すっかり元通りです』

「そうか…」


少し訪れた沈黙は拒絶か受容か──────


『あのｯ!!…あの時……スネイプ教授を裏切るような形になってしまって…スネイプ教授を傷付けてしまって………すみませんでした』

あの日のあの時
追いついたその背に伝えたかったこと


『自分自身を犠牲にしない選択肢を選べず申し訳ありませんでした……』

「………意味があってあの行動を選んだのだろう??」

未だ振り返ることないその背に
私は言葉を投げ掛けるしか術をもたない


『でも結局…誰かを、スネイプ教授を傷付けてしまいました……信頼してくださったのに…』

理解をしてもらえたことは嬉しくとも
スネイプ教授を傷付けたという事実は消えない

他にも手段があったのに
選ばなかった

いや

考えもしなかったのは私の落ち度の他無い


「そうだな、危険だと分かっていながらの行動…流石に見過ごせるものではなかろう。」

布が擦れる音
椅子の僅かに軋む音

スネイプ教授の僅かに低められた声音に


この場の全てがスネイプ教授に掌握されていく

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