十二日目 ページ12
『え...めっちゃ待ってたんじゃん』
Aはそう言いながらも、足元で雑魚寝している鬱を見下ろした。
机の上には珈琲だとか、お菓子だとかが置いてある。
鬱は眠っているからか、少し前にきたときについていた隈は若干薄くなっているような気がする。
『う〜ん、どうしよ』
Aはしゃがみ鬱の頬をつつく。
鬱は呻きながら寝返りをうった。
『...会いたい、か。』
昼の間のことを思い出す。
皆で円を作り談笑していた鬱たち。
『でも、そろそろバレそうかな...いや、バレてるか、一人には』
くす、と笑うA。
隠すつもりはないのだが、特に言う必要もなく黙っていたが...
Aは月を見上げた。
『嫌われたくない、なぁ...』
胸に込み上げる何かを無視し立ち上がる。
『寝てるなら、いいや』
出ようとしたとき、猫が外からAを呼び掛けた。
『...ごめんね、此処に居座らせちゃって』
猫の頬を撫でると手にすり寄ってくる。
ベランダを閉じ、外に出るA。
猫は良いのか、と言いたげにAを見上げた。
『なんで君が心配してるのさ』
私のことなのに、とAは悲しそうに笑った。
『確かに...もしかしたら、今日が最後かもしれないけど、良いんだよ。
鬱は幸せそうだし』
Aは猫を抱き上げた。
猫は嫌がり腕から抜け出そうとする。
無理矢理その猫を抱え直す。
『で、彼はどうしてたの？』
猫はAを見上げ一鳴きした。
『...へぇ、なるほど。面白いね』
喉をならしAが笑うと猫は怪訝そうにAへと目を向けた。
『良いんだよ、そんなに怒らないでって。
...うん、君の気持ちも理解してるし、申し訳ないと思ってるよ』
Aは寂しそうに眉を下げた。
『...ありがとう、私も私らしく、頑張ろうとは思うよ』
猫は短く鳴き声をあげた。
『...あ、お腹すいてない？
見て、これ』
Aは煮干しを手にはにかんだ。
猫はそれを見て地面へと降り、Aが地上に置いた煮干しを食べ始めた。
美味しそうに食べる猫を見てクスリとAは笑った。
『そんなに早く食べないでよ...喉つまらせちゃうよ？』
楽しそうにそう笑いながら、再び歩き始めた。
暗闇の中森を歩いていると言うのに、暗さを感じないように二人...一人と一匹はぬるぬると進んでいく。
『朝が来るねぇ...ね、あやめ。』
思っていたよりも直ぐに朝が来てしまったようだ。
動物の行動し始める物音を耳にしながらAは木々の中へと消えていった。
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作者名：咲々姫 | 作成日時：2021年2月2日 16時
