十三日目 ページ13
数日後。
あれっきりAと会えなくなった鬱は悩んでいた。
なんで急に来ないようになってしまったのだろうか。
鬱は大きなため息をつきながらあの日のようにベランダの柵に背中を預けた。
「...面倒くさそうにしとったし、飽きられたんかな」
鬱は小さな声でそれを呟いた。
意外にも自分が楽しみにしていたということに気がつき、驚いてしまう。
でも...
「仕方ないのかもしれへんな。」
あのときの俺は、存在意義を探しとったし
誰かに伝えるわけでもなくそう呟く。
『何そんな顔してんの』
声に慌てて振り向く鬱。
その目線の先には柵に足をかけたAが立っていた。
「は、ぇ...なんで？最近来んかったのに」
『忙しかったんです〜。勝手に暇人にしないでよね』
足を回して柵に座るA。
Aは宙に浮いた足を前後に動かし楽しそうにしていた。
「...Aちゃん、Aちゃん？」
何度も何度も確認するように名前を呼んでくる。
驚いた表情のAに鬱は手を伸ばした。
しかし、すんでのところでその手を止める。
セクハラと訴えられることを恐れたからだ。
Aは首をかしげてから、行き場のなくなったその鬱の手を掴んだ。
「ぅえ、」
鬱の顔から血の気が引く。
「手、つ、繋いで...っ」
『...大丈夫だよ、鬱』
安心させるように『私から触ったから』といい鬱の手を包み込む。
「...おん、すまん」
『いいよ、別に』
目線を反らしながらもさりげなく手を掴む鬱。
「もうちょっと、これがええんやけど」
『...好きにすれば』
「部屋ん中入ろうか。」
鬱に促され部屋へと入るA。
『どうしたの、急に』
Aは何も言わない鬱に痺れを切らしたように頭へと手を伸ばし、撫でる。
時計の針の音だけが聞こえる空間に堪えきれなくなったのか、次は鬱から話し出した。
「僕、あかんよ...言われへんけど、弄ってほしくないんや。
冗談だなんて、言われんでも分かっとる。
それでも怖いねん」
俯かせた顔からは表情が読み取れない。
止めが効かないのか、話は止まらない。
「俺やってグルッペンみたいに皆に慕ってほしかった。オスマンみたいに人の心情を察せるような人間になりたかった。とんちみたいに頼られたかった...
コネシマみたいに皆を笑わせることが出来るような奴になりたかったし、ひとらんらんみたいに優しい人間になりたかった」
鬱は段々自分を追い詰めるように、胸の思いを叫びとして外へと出し始めた。
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作者名：咲々姫 | 作成日時：2021年2月2日 16時
