猫になったら拾われた 太宰治

得策 ページ9

「クロお風呂入ろう、眠くなっちゃった」

小さくあくびをして鈴が私を抱き上げた。

お風呂って言ったよね、今。

私は一応男だし、二回目だけどね…。

流石に知らない間に裸を見られるのは嫌だろうし。

「ニャー(入らないよ)」

ふるふると首を振ってみる。

「駄目、綺麗にならないとベット来ちゃ駄目だよ？」

ベットで一緒に寝れないのは困るなぁ。

「ニャアン(入るよ)」

「お湯は大丈夫だよね？」

身体にタオルを巻いた鈴がシャワーを持って私に触れた。

ちらりと覗く白い肌がやけに白く見え、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

本当に猫は得なのだね。

夏目先生はこんな事をしていたのだろうかなぁ？

パシャンとお湯が私を濡らした。

「ニャア(熱い)」

「太宰さん遅いなぁ…」

ポツリと呟きが耳に届いた。

もしかして待ってくれているのだろうか？

「お仕事長引いているのかな?」

此れは早く戻らなくては。

パチャンっと水が跳ねる。

「ニャアン？(早く来て欲しいかい？)」

彼女の方を見ると、ほんのりと頬が色付いていた。

「どうしたの？クロ」

キョトンと私を見詰めた。

「ニャア(好きだよ)」

「クロ…」

儚げな悲しい微笑を浮かべて鈴が私を撫でた。

何か引っかっかる笑顔だ。

「ニャア？(鈴)」

ーーー
「スー、スー」

規則正しい吐息を立てて彼女が眠っている。

今すぐ彼女を抱き締めたい衝動に駆られた。

悲しそうな笑顔が目に焼き付いて離れないのだ。

「にしても、無ほうびだねぇ」

自分の口からは人の言葉が。

鈴の事になると猫になったり、人間に戻ったり出来るのだね。

「好きだよ鈴」

ゆっくりと優しく抱き締める。

何故か彼女は側に居たくてたまらなくなる。

側に居ないと掻き消えてしまいそうな危うさがある。

「んっ…」

微かに漏れる声。

「今すぐにでも奪ってしまおうか…」

ストーカーの犯人は、もうすぐ来るだろうねぇ。

その前に彼女を私の物にでもしてしまおうか？

「だ、誰だお前は‼」

後ろから低い声が聞こえてきた。

「君が彼女のストーカーだね。悪いのだけど、近付かないでくれるかい？」

彼女と変わらない年齢の青年。

「ッ‼」

君にこれ以上近付いて貰っては困るのだよ。

「さて、どうするかい？」

今この場で始末しても良いけど鈴に見付かってしまうからね。

「そうだ、早く立ち去らないと明日から君はストーカー犯で逮捕されて刑務所の中だよ？」

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