▽37 ページ38
.
私はあれからいっそう部活に打ち込むようになった。
信介とのハグもいつの間にかなくなっていった。
泣いても笑ってもあと2ヶ月。
ここまでずっと何よりも優先してきた部活が終わろうとしている。
それを色恋沙汰でないがしろになんてしたくなかった。
たとえそれが慕う信介への思いであったとしても。
恋のせいで心に空いた穴を部活で埋めた。
.
「侑、さっきの無理やりオーバーでいくことなかったやん」
「……北さんにもう言われました」
ある寒い冬の日の練習中、侑のその言葉で笑った。
何だか嬉しかった。
でもそこには恋愛感情なんかない。
ただ3年間同じチームで同じようにバレーをやってきて、見てきて、同じようなことを思うということが純粋に嬉しかった。
家族よりも長い時間を共に過ごしてきただけある。
それがもう、両手で数えられる程で終わってしまう。
.
部活で1年を締めくくる日、みんなで大掃除をした。
高校に入る前、私は掃除が嫌いやった。
自分が不満なく過ごせたら何でもええやん、とか思うタイプやった。
それが信介と出会って、随分と変わったと思う。
「おい角名!ホコリ残っとるで、ちゃんとやり」
「……ハイ」
「誰も見てへん思たら間違いやでな」
サボるやつは許さん、と目を光らせつつ手も止めない。
「南はこの3年で北そっくりになったな」
持ち場の掃除を終えた尾白にそう言われた。
「正直自覚ある」
「はは、そやろなあ」
何でもかんでも誰かが見てる、て思ったら自然と動けた。
手なんか抜こうと思えへんくなった。
でも、それが心地いい。
信介の言う 反復、継続、丁寧 は私も好きになった。
信介がいつかに嫌やって言うてた『思い出なんかいらん』のスローガンは、私もあんまり好きになれんかった。
そら終わったことを振り返ってもどうにもならんけど、でも良かったことも悪かったことも、それを経て全部今の自分になってると思ったら、愛おしくなる。
あと単純に思い出は欲しい。
このチームでやってこれたこと、終わっても忘れたくないし、一生私の中で生き続けて欲しい、そう思う。
もう私が信介と一緒におれるのはせいぜい2週間とかそんなんやけど、信介の影響を受けてできた今の私を大事にしたい。
……妙に感傷的になってしまった。
「みんなやることちゃんとやったら神様は見てくれてるし味方してくれるからな!」
手抜くなよ!といつもの癖で大声を出した。
.
601人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なず@ヴィル様の旦那です(プロフ) - うびゃぁ…………今まで読んできた中で一番好きです… (2021年4月10日 16時) (レス) id: c2e37a127a (このIDを非表示/違反報告)
依(プロフ) - ちびさん» そう言ってもらえると嬉しいです^^お読みいただきコメントまで、本当にありがとうございます! (2020年6月5日 22時) (レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
ちび(プロフ) - めっちゃ感動しました!!最高です( ; ; ) (2020年6月2日 20時) (レス) id: c0c643d2d0 (このIDを非表示/違反報告)
Rikka(プロフ) - りるとさん» そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます^^ (2020年4月17日 8時) (レス) id: 1c396819ac (このIDを非表示/違反報告)
りると - めちゃくちゃいい話でした!! (2020年4月15日 0時) (レス) id: 615da3bcde (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Rikka | 作成日時:2020年3月18日 10時