371話 ページ6
「ちょっと、大変だったよ。でも……あの人、多分ちょっと、ザックには甘いんじゃないかな……」
レイの言葉にザックは「おえええ」とえずく。心底気持ち悪そうなザックの様子にレイは驚いたかのように慌てて呼びかけた。
「ザック、もう吐かないでね……」
「うっせー!! 気持ち悪いこと言うな!」
ザックが息を飲み込みながら顔をしかめるのを見ながら、Aは思ったことをそのまま口にする。
「レイ、薬を探しに行った時、神父様と何かあったの?」
「少し。でも……ザックのことを話している時はなんだか優しかった」
「何回も言ってんじゃねぇよ、気持ちわりぃ! だいたいあいつのことはよくわかんねぇんだよ……!」
またもやえずくザックにAは小さく苦笑する。神聖な雰囲気の漂う大聖堂の中で少し騒がしくしてしまったが、やがて三人はすんなりと大聖堂を通り抜けた。
*
大聖堂の奥の部屋に入るなり、レイがあ、と小さく声を漏らす。
「ここ……あの人に、薬をもらった場所」
レイがそう言って目を向けた棚の上にはもう何も無い。恐らくはそこに薬があったのだろう。そして、当然グレイの姿もなく。辺りにはただ、教会や回廊と同じようなステンドグラスの光が降り注いでいる。
そして、その棚の奥。続いている通路の先へと進めば、そこにエレベーターがあった。すぐ横にはレバーがあり、それを引くだけでエレベーターは起動するようだった。今までのフロアのような仕掛けもなく、すんなりと先へ進む道が開く。
「次は、B1……」
エレベーター横の表記を見上げてAは何気なくそう口にした。その間にレイが、エレベーター横のレバーを引く。ガチャン、と音を立てて起動したエレベーターの扉が開けば、ザックは戸惑いもせずにつかつかと乗り込んだ。
「よし、行くぞ」
「うん。もう少し、だね」
Aもまた、B1と表記されたボタンが点滅しているのを横目に見ながらザックに続く。
「あ、待って」
乗り込んだ二人に対して、レイだけが、なかなか歩き出さない。何かを恐れているかのように、迷っているかのように、そわそわしながらもその場を動かないレイを見てAはまたもや首を傾げる。その横からザックがレイに向かって声をはりあげた。
「おい、はやくしろよ」
「うん……」
ようやくレイが足を踏み出す。地面をすり抜けて地下へ落ちていくのを恐れているかの様に、恐る恐る。
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リア(プロフ) - ゆゆさん» ゆゆさん、コメントありがとうございます!そしてお返事が遅れて申し訳ありません……!ようやく夢主が前に進む覚悟を決めることができました。残るフロアはあとわずかですが、ぜひ最後までお付き合いください。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします! (2021年9月25日 2時) (レス) id: d0c52e385f (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ - 続編おめでとうございます!!楽しみに待っていました!夢主ちゃんが、きちんと前を向いて進んでいけそうなので、ホッとしました。次はいよいよB1……。夢主ちゃんがどう動くのか、とってもワクワクしています。リアさんのペースで、更新頑張ってください!! (2021年9月4日 17時) (レス) id: 0ff7621059 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リア | 作成日時:2021年9月1日 16時