370話 ページ5
各階を通って、B2までようやく戻ってくる。大聖堂に向かって歩きながら、レイがザックの顔を見上げてふと口を開く。
「ねぇ、ザックは、まだちゃんとここから出たい?」
「あぁ? 当たり前のこときいてんじゃねーよ。でなきゃこんな必死こくわけねぇだろうが!」
顔をしかめて怒鳴り返すザックを不安げな目で見つめたレイはAにも同じ問いを投げかけた。
「……Aは?」
「……うん。出たいと思うよ。二人がいてくれるから、わたしもそう思える」
Aの返答をきいたレイはふっと俯く。平坦な声で「そう。ならいいの」と言い、何事もなかったようにまた足を進めた。
「ホントに変なやつだな。言っとくが、俺の言葉に何一つ──嘘なんかねぇぞ!」
ザックの言葉にレイは小さく頷いたが、その顔はどこか浮かない様子だ。自分を落ち着かせるかのように小さく胸をおさえるレイを見てAは首を傾げる。──レイの様子がおかしい。そんなことを考えているうちに三人は大聖堂にたどり着く。
「でけぇ教会だな……」
どこか呑気な声でそう呟いたザックが教会の天井を見上げるのにつられて、Aも顔を上げた。
天井まで連なるステンドグラスから、色とりどりの光が降り注いでいる。首をいっぱいに傾けなければ見上げられないほどの巨大な教会。こんなにも立派な教会があるのが地下だと言われても、簡単に信じることはできないだろう。ふとAは、かつて地上にいた頃にグレイと日々を過ごした教会を思い出した。心が凪ぐように澄み渡っていく。
レイもAと同じように天井を見上げ、何かを考え込むかのように黙り込んでいた。ステンドグラスの光に魅入られたかのようなレイに、ザックが話しかける。
「……でもよ、あいつ、よくお前に薬を渡したな」
あいつ、というのはグレイのことだろう。Aがレイの方を振り向くと、レイはその時のことを思い出したのか、小さくため息をついたようだった。
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リア(プロフ) - ゆゆさん» ゆゆさん、コメントありがとうございます!そしてお返事が遅れて申し訳ありません……!ようやく夢主が前に進む覚悟を決めることができました。残るフロアはあとわずかですが、ぜひ最後までお付き合いください。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします! (2021年9月25日 2時) (レス) id: d0c52e385f (このIDを非表示/違反報告)
ゆゆ - 続編おめでとうございます!!楽しみに待っていました!夢主ちゃんが、きちんと前を向いて進んでいけそうなので、ホッとしました。次はいよいよB1……。夢主ちゃんがどう動くのか、とってもワクワクしています。リアさんのペースで、更新頑張ってください!! (2021年9月4日 17時) (レス) id: 0ff7621059 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リア | 作成日時:2021年9月1日 16時