前哨戦《壱》 ページ24
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『環境の関数として、痙攣的に他者を傷付けるのは…単なる、害獣の狂乱だ。そうは思わないかい?安吾』
いつだったか、そう言った太宰君の目には、物騒な話題とは裏腹に 夜空の星が
目線の先ではストライプのワイシャツをたくし上げ、男の子が腕白に走り回っている。
織田作さんのお下がりらしいそれは、小柄な彼には少しだけ大きく、さらに幼さを助長しているようにみせる。
『でもね、あーぁ。あんなのが害獣だなんて笑わせてくれる』
こらぁ、と間の抜けたような叫びをあげて少年が追いかけていたのは子供たちだった。
上着を取られて怒った顔をしているが、子供と戯れる姿は無邪気で、陽だまりのような輝きを放っていた。
『たしかに彼の暴力は須らく、環境の関数によって引き起こされる。
その点で言えば彼はただの害獣に過ぎないのかもしれない。けどね…逆に言えば、そこに彼の意志なんかない。
これっぽっちだってないんだ。だってあの子の意志は』
そこから先の言葉が、不意に途切れる。
ああ。確かにそうだ。あの子の本心――― 一之君望みは、平凡で普遍的な幸せと温もりの中にあるのだから。
『まぁ…己の意志で暴力を振るうのなら、それはどんな残虐も人間らしさの一面なんだろうけどさ』
そう言って太宰君が、眩しいものを見るようにぎゅっと目を細めたのが、ずっと鮮明に記憶に残っている。
『ああして先生やってる方が、ずっとずっと一之らしいよ』
今にして思えば。
太宰君は、きっと、誰よりも《一之君が持つ光》に焦がれていたのかもしれない。
誰よりも正しく生きていこうとする彼を、心から大切に思っていたのかもしれない。
それを理解したところで、最早僕には今更懐かしんで はにかむような資格は残されてはいない。
そのように僕を叱りつけるようにして、雷が轟いた。目を開ければ現実が飛び込む。
雷と錯覚する銃声。
叫ぶような指示と、遮るように反響する泣き声。
かつてマフィア制圧の中心と期待された軍事施設はいまや、狂乱を撒き散らすための工場になっていた。
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アバンギャルド・マボ(プロフ) - 更生したかに思えた先の人生でも不幸は続いて。最終的に彼は。…………という暗喩です笑笑笑笑笑笑 足立が人を初めて切った例の事件では15歳だったので、この凄惨な小説と映画を思い出さずにはいられませんでした。 (どちらかというと映画版を思い出しております。) (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 姫歌さん!その通りです笑笑 キューブリックによって映像化もされた、あのやべえ小説の題名をお借りしています。時計仕掛けのオレンジの主人公は、15歳の少年でしたよね。彼は非行に走って、暴力の一切を怯え嫌うようになるほどのトラウマを刑務所で植え付けられ、 (2019年9月9日 21時) (レス) id: 6a86a136d3 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌(プロフ) - コメント失礼します。時計仕掛けのオレンジとはアントニイ・バージェス著の時計仕掛けのオレンジでしょうか? (2019年9月9日 16時) (レス) id: d8a4d97043 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 南雲藍琉さん» コメントありがとうございます!! 忙しい中読んでくださって本当に有難う御座います…色々重く受け止めないでくださいお願いします(真顔 続きができました!長い話になっちゃいましたが、のんびりとお付き合いください笑笑 (2018年7月8日 15時) (レス) id: ea18c173c6 (このIDを非表示/違反報告)
南雲藍琉(プロフ) - ここ最近は2週連続検定やらテストやらで時間が取れず、読み込むことが出来ないためコメントは控えていたのですが、そのために作者様に誤解を生む結果になっていたのなら申し訳ありません。足立くんの話は更新される度読んでいますし、これからも楽しみに待ってます。 (2018年7月7日 14時) (レス) id: 2e644448cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2018年3月11日 18時