花の運命−さだめ− 【片倉小十郎】 弐

第６３話　大事なモノ ページ20

「待て、すみれ。どこへ行く」

「……とんぼ玉……青色のとんぼ玉がないのです。多分、外に……わたしが倒れてた場所に落としたのかもしれません。そこを重点的に探せば……探しに行かないと……」

「探すって……外は真っ暗なんだぞ。こんな暗闇じゃ見つかるわけねえだろ！ それに、お前を保護してからもう二ヶ月くらい経つんだぞ。あるかどうかも分からねえのに、馬鹿な真似はよせ！」


政宗は顔をしかめて厳しく制するが、すみれは引き下がらない。


「いいえ、危険を冒してでも探しに行きます。止めないで下さい」


すみれと政宗のやり取りを見ていた慶次と元親は黙って見過ごす事が出来ず参戦し、彼女を思い止まるように説得を試みた。


「青がいいの？ だったら明日町に行って、俺が代わりのを買ってきてやるよ」

「それか、俺が作ってやるぜ？ 作るのは得意だからよ」


すみれは首を小さく振り、項垂れるように俯く。


「代わりは、ないのです」


少し苦しげな声で呟く。


「あのとんぼ玉は、大切な宝物なんです。蓮様から初めて頂いた、忘れられない思い出が詰まっているんです……」


着物の合わせ目を握りしめ、伏し目がちに、何かを堪えるような仕草。
相当思い入れのある大事な物だったのだと小十郎達は察した。
すみれの気持ちは痛いほど分かる。
大事な物を失くしたと分かった瞬間、誰しも焦りや悲しみに飲み込まれる。
けれど、今の彼女は危うい状態に立ち大事な物(とんぼ玉)に依存しすぎて、目先の事に囚われている。


「すみれ……」

「大事な物なんです」


決して、この手を離してはならない。
どんなに懇願されても、絶対に。
そうでもしないと、この愚かで、頑固な彼女は。


「命よりも大事な物なんです。あれがないと、わたしは……」


底の見えない闇に引きずり込まれて、今でも本当に命を落としかねそうで、彼女を失うのが怖くなった。


「すみれ!!」

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