【閲覧注意←】パンドラダイアリー。【妄想オリジナル】

――最後まで、ごめんは言えずに。 ページ50

元気に生きろって…
馬鹿じゃないのかなぁお母さんは。

「子供の頃から…お母さんは自分のことは二の次で、誰よりも…何よりも子供のことが大切だった」

知っていたのに。
知っていたはずなのに。

「今更後悔か？」

馬鹿にしたような、龍志の声が聞こえる。
だけどその顔を直視できる勇気も覚悟も、私にはなくて

「どうだろう。 やらなければよかったとは思ってない」
「…はっ、上等だ」

上の空だ。
お母さんは今、私を思って泣いているのだろうか。
お父さんはちゃんと仕事に集中できているのだろうか。
姉は、ちゃんと自分が何をしでかしたか、反省できただろうか。

私の行動は、何か結果を残せただろうか。

そっと渡された携帯を受け取り、電源を入れる。
軽快なメロディーとともに、画面が点く。
その、よく見るブランド特有の背景画像と、慣れない操作。
渡された携帯は、私が前に愛用していたスマホとはまったく違う種類なんだから。

中のデータはほとんどない。
当たり前だろう、買ったばかりなんだから。

でも何かを知っているように、私の指は自然と電話帳と書かれたボタンを押した。

「家」

そうシンプルに示された電話帳の登録番号は、何よりも重くてつらかった。
のしかかられた現実を、急に眼前に押し付けられたようだ。
「いつでもまた、戻ってきて良いんだよ」って
「何が会っても私たちは家族だよ」って

優しく語りかけてくれるようだった。
ぎゅぅ、ときつく携帯を握りしめる。
手が震える。
寒さや故意にではなく、手が震えたのは初めてだった。

不思議な感情だった。
恐怖なのか、深い悲しみなのか、いとおしさなのか

「…泣かねぇのな、お前」
「…え？」

唐突に言われた言葉に、はじかれたように私は顔を上げる。
そこには、全く静かな表情を浮かべた龍志がいた。

「お前さ、今の今までずっと、一度も泣いてないだろ」
「…私に、泣く資格なんて」

お母さんには泣く資格がある。
愛した娘にこのような最悪な形で裏切られたのだから。

アイリーンたちだって泣く資格がある。
将来をつぶされたのだから。

でも私には泣く資格など無い。
私がすべてを仕組んだのだから

「誰が言ったよ」
「…え？」
「泣けよ、阿呆らしい」

阿呆はどっちだと言うより先に、暖かいものが頬を伝った。

「あ――」

ぽたりと滴が零れるが早いか、
せき止めていたものが溢れるように、
私は初めて泣いた。

「っうあぁぁああ…！！」







――最後まで、ごめんは言えずに。

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