月の欠片、星の雫【短編集】

無茶しないでよ ページ39

『ね、ねぇ』
「あぁAか。どした? 」


扉の隙間からAがじっと見つめている。

しかし、いつまで待っていても一向にそこから動かない。


首を傾げていると、おそるおそるというように、

部屋に入ってきた。



『手』
「ん? 」
『手、出してって言ってるじゃん! 』



怒ったように言われ、咄嗟に手を差し出す。

すると、慣れた手つきでコットンに消毒液をかけ、

手の傷がある箇所にそっと置く。



『なんで、こんな怪我するの? 』



怒ったように聞かれ、思わず敬語で答える。


「いや、コンビニの店員に文句つけてる高校生を注意したら、

逆ギレされてこう、なりました……」


笑って誤魔化すが、Aは全く笑っておらず、

それどころかさらに怒ってしまったようだ。


それ以上何も話さないまま治療がされ、

最後に絆創膏が貼られる。



「あ、ありがとう」
『終わってない。次、顔だして』



前髪を上げられ、乱暴に治療された。



『……でよ』
「え、」
『何でもない! 動かないで』



これではどちらが年上か分からない。

しばらく大人しくしてると、

パタリと救急箱を閉める音。



『はい、終了』



そう言って、自分の部屋に戻ろうとするA。


「あぁ、A。ありがとな」

『別に、カラ松兄さんの顔がそれ以上悪くならないように、

してあげただけだし! 』


そんな憎まれ口を叩かれるが、少し頬が赤い。



「そっか。ありがとう」


再びお礼を言うと、


『だから、別に違うから!


あと、トド松兄さん、まだこの間の子と連絡してる? 』

「いや、もうしてないみたいだぞ」

『そっか、よかった』


安心したように、安堵する。

その様子が気になり、つい質問してしまった。


「なんで、よかったんだ?」


俺の問いにAはしまったという顔をしたが、

静かに答えた。

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