泳げない人魚姫 ページ22
「何ー? 」
話したことは皆無だったが、
警戒心を解くため、
友達に話すみたいに親しみを込める。
勢いよく水面から飛び出したせいで、
覗き込んでいた彼女の顔に少し水がかかった。
『あの、先生からで、
補習は合格だからもう帰っていいって……』
太陽のせいか、赤くなった顔が下からよく見える。
ぼんやりそれに目を奪われていると、
もう一度名前を呼ばれる。
「あぁ、わかったあんがと。でもなんで」
彼女が伝言係なのだろう。
不思議に思っていると、彼女の方から話し出す。
『私、図書室に本借りにきてて、
職員室に鍵返したら、
先生に伝言を頼まれました……』
ということはとんだ、とばっちりなわけか。
言いに行くのが面倒な先生の。
俺なら面倒だから、真っ直ぐ帰るな、うん。
「そっか、ありがとね」
もう一度お礼を告げ、
去る彼女を見送ろうとしたが、中々彼女が動かない。
不思議に思って俺も動かないでいると、
何かを言いたそうな顔。
どうした? と目で訴えかけると、
彼女は恥ずかしそうに俯き、小さく喋った。
『ま、松野君、泳ぐの上手だね』
力を振り絞るように出た話題は、俺のことだった。
『さっきの泳ぎ、きれいだった……』
俺に気があるのか、なんてことを考えたが、
違うらしい。
目がまるで、純粋な子供みたいにキラキラしてる。
単純に本当に泳ぎの姿を褒めているのだ。
きっと、この場にいたのが他の男子でも、
あるいは女子でも、彼女はそう言うのだろう。
直球に褒められ、柄にもなく照れる自分がいた。
それを悟られまいと、素っ気なく返してしまう。
「そう?」
彼女は本当だというように、首を縦に勢いよくふる。
『あ、あの。泳ぐコツとかあるの? 』
私、泳げないから……と恥ずかしそうに付け足す。
「コツは別にない」
練習すれば誰でも出来ると思っているので、
コツなど分からない。
というか俺は教えるとか出来ない。
説明下手だし。
そう言うと、
目の前の彼女があからさまに落胆する。
『そ、そうだよね』
素直な性格なのか、明らかに残念がった。
困った笑いを浮かべ、帰るため立ち上がろうとしている。
なぜそうしたのか分からない。
俺は、
コンクリートの縁に置かれていた彼女の指先を、
濡れた手で掴み、自分の方へ引き寄せていた。
「「ぁ」」
と同時に短い声を上げ、
激しい水しぶきが目の前で上がる。
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月夜の光(プロフ) - 林檎麻さん» 林檎麻様、更新が遅くなって本当に申し訳ありません! お気に召したらいいなと思っております> < (2016年9月20日 0時) (レス) id: d3821ecd4f (このIDを非表示/違反報告)
林檎麻(プロフ) - 月夜の光さん» うわあぁあぁ返信ありがとうございます!!!こちらこそ本当にありがとうございます!! (2016年8月18日 23時) (レス) id: 6ae5345221 (このIDを非表示/違反報告)
月夜の光(プロフ) - 林檎麻さん» いつもありがとうございます!リクエストもとても嬉しいです!期待に沿えるよう頑張ります!! (2016年8月18日 20時) (レス) id: 882257e3d8 (このIDを非表示/違反報告)
林檎麻(プロフ) - カラ松とツンデレ妹夢主ちゃんの絡み合いが見たいです!!(笑)いつも怪我ばっかりしている次男の身体を見て、ちょっと心配する夢主ちゃん…みたいのです…分かりづらくてごめんなさい…!! (2016年8月17日 22時) (レス) id: 6ae5345221 (このIDを非表示/違反報告)
月夜の光(プロフ) - 林檎麻さん» コメント本当にありがたいです!一松が一番好きなので、どうしても一松ばっかりになってしまいます笑笑 新作も見て頂きありがとうございます!そちらは全然更新出来てませんね…なのでそっちも頑張ります!いつもありがとうございます!! (2016年7月3日 9時) (レス) id: 882257e3d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月夜の光 | 作成日時:2016年3月17日 0時