月の欠片、星の雫【短編集】

お代はその笑顔で ページ12

『ごめんなさい……。


誰も愚痴聞いて気持ちが良いわけないのに、

チビ太の気持ちも考えないで……』



違う、俺の方がAの気持ちも考えないで、

Aの方が苦しんでいたのに。



「バカヤローだ。俺は……」
『え……』



「謝るのは、俺の方だ!

A、本当に悪かった‼ 」



勢いよく頭を下げる。

その反動でゴンッとテーブルにおデコをぶつけた。

痛みも我慢して、

そのままAが何か言うのを待った。



すると、頭に何かがのる。

それは優しく俺の頭を撫でた。

まるで、ぶつけた痛みを取り去るように。



『怒ってないよ……』



頭を上げると、小さく微笑んでいるAの姿。



『よかった』
「ん? 」
『また、チビ太のおでん食べられて』



そう言ってAは餅巾着を食べ始める。



『あ、あとね』



言おうか言わないか迷っているようだ。


首を傾げ、言葉を待つ。



『ありがとう』



突然のお礼に、口をパクパクさせてしまった。

お礼を言われるような事を俺はしただろうか。



「お、おう?」



と気になりながらも餅巾着を再びAに置く。


『うん、美味しい』



一口食べると、瞳を三日月にして俺を見た。



それだけで、自然と笑顔がほころぶ。

まだ、想いを伝えようとは思わない。




今はこのままでいい。




美味そうに俺のおでんを食べてくれる、

Aの笑顔が見れれば。






・






・






・




(チビ太ぁ、水〜気持ちわりー)
(呑みすぎだバーロー)
(え、あなたは、)
(あれぇ、おねーさん……)
(なんだお前ら、知ってたのか?)
((いや別に……))



fin.

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