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三十三章 ページ33

「罪人の御霊よ、安らかに眠りたまえ」

牧師の声が響く。
お母様の遺影を見て、涙を流す者は一人もいなかった。
ただ私だけ、目元を赤く腫らして俯いていた。

「夏さん、大変失礼致しました」
隣に立っていた男の人ー小泉八雲さんが、呟くように云った。
「貴女のお母さんは、立派なお医者さんでしたよ。私も信頼していたお医者さんでしてー」
「いいですよ。大丈夫です」
遮ると、小泉さんは目をぱちくりさせる。私は自嘲気味な笑みを漏らした。
「貴方がお母様を、邪魔者だと思っていたのは知っています。お父様の姿を消したのもー貴方でしょう、小泉さん」

「流石は川海康彦さんの娘さんですね。お見通しですか」
小泉さんはその瞳に怪しげな光を宿して、にやりと意地悪く笑った。
「どうして判ったんです?」
「さあ?直感かな」
誤魔化すように云うと、小泉さんは肩をすくめてから、真っ直ぐに私を見つめた。

「まあ、もうどうでもいいですよ。貴女の母親は罪人として処罰され、音声だけ撮りたくて攫った父親はちょっと飯を抜いたら餓死したし。どちらも弱い人間でした」

気がついたら襟首を摑んでいた。
勢いにつられて鈴がチリンと鳴り、私の姿が小泉さんに見えなくなる。
「お母様は、私を庇って死んだの。弱い人間なんかじゃない!」
絶対に聞こえないと判っていても、声を張り上げずにはいられなかった。
腹の底から込み上げてくる感情は、きっとー

きっと、この人に対する、“怒り”以上の何か。

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茉里 - ありがとうございます!続編もじゃんじゃん更新しますので……よろしくお願いします! (2019年6月4日 19時) (レス) id: 0903b0c425 (このIDを非表示/違反報告)
ク レハ(プロフ) - 完結おめでとうございます!続編のほうも応援させていただきます!! (2019年6月4日 18時) (レス) id: ddd19fa939 (このIDを非表示/違反報告)
カゲロウ(白ヰ迷ヰ戌)(プロフ) - ええ!勿論です! (2019年6月3日 18時) (レス) id: 26ee7c4c14 (このIDを非表示/違反報告)
茉里 - 最後まで読んでくださってありがとうございました!新作書いたらまたよろしくお願いします! (2019年6月3日 17時) (レス) id: 0903b0c425 (このIDを非表示/違反報告)
カゲロウ(白ヰ迷ヰ戌)(プロフ) - 完結おめでとうございます! (2019年6月3日 17時) (レス) id: 26ee7c4c14 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:茉里 | 作成日時:2019年5月27日 21時

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