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三十四章 ページ34

背中を、ぞくっとした悪寒が走り抜けた。

目の前が黒と黄色に点滅する。舌が痺れて味を感じなくなる。脳が冷えて思考回路が停止し、躰が云う事を聞かなくなった。
乱歩さん達が待つー横浜への帰り道の途中。
私の魂は完全に、この世から消える事を望んでいた。

「あ、ら、乱歩、さん………」
誰かに潰されたように声が出なくなった喉の奥から、無理矢理声を絞り出す。体温が急激に冷えていく。世界から色が消えていく。
私は何事か囁いた。何を云ったのか記憶に残っていないけれど、多分こう云った。

ー「出逢ってくれて、ありがとう」。

その言葉を遺して、私の喉は完全に声を出せなくなった。
私は、乱歩さんの世界にも存在しなくなる。
視界が様々な色に変化して、やがて端から真っ黒に塗りつぶされていく。
音も消えていくのを感じながら、ゆっくりと目を閉じた。


………………………………………………世界が明るくなり始めた頃。
江戸川乱歩はある違和感に気づいていた。
夏が、帰ってこない。京都に行ったきり音信不通だ。
赤の他人だから気にする事はないのかもしれない。所詮幽霊だ。いなくなっても、乱歩に害はないのだから。

でも。
夏は、乱歩の中で大きな存在になっていた。
夏がいない事は不自然だし、いて当たり前だった。
だからー

ー『出逢ってくれて、ありがとう』。

夏の声が聞こえた時、涙が溢れてしまったのかもしれない。

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茉里 - ありがとうございます!続編もじゃんじゃん更新しますので……よろしくお願いします! (2019年6月4日 19時) (レス) id: 0903b0c425 (このIDを非表示/違反報告)
ク レハ(プロフ) - 完結おめでとうございます!続編のほうも応援させていただきます!! (2019年6月4日 18時) (レス) id: ddd19fa939 (このIDを非表示/違反報告)
カゲロウ(白ヰ迷ヰ戌)(プロフ) - ええ!勿論です! (2019年6月3日 18時) (レス) id: 26ee7c4c14 (このIDを非表示/違反報告)
茉里 - 最後まで読んでくださってありがとうございました!新作書いたらまたよろしくお願いします! (2019年6月3日 17時) (レス) id: 0903b0c425 (このIDを非表示/違反報告)
カゲロウ(白ヰ迷ヰ戌)(プロフ) - 完結おめでとうございます! (2019年6月3日 17時) (レス) id: 26ee7c4c14 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:茉里 | 作成日時:2019年5月27日 21時

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