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#16 ページ22

目を覚ますと事務所の仮眠室にいた。


上体を起こし、澤藤を探す。


『あ、いた』


喫煙室で煙草を吸う澤藤の横顔。


扉を開き、おはようと告げればやっと起きたか、と呆れたように笑われた。


「まあ、起きたなら都合がいい。スタジオ行ってCD発売の告知動画撮るぞ。」


そういえば撮ってなかったな。


そう思い、澤藤の後ろにつく。


少し長い廊下を歩いている間にも思考が巡る。


失望されないか、とか。


拒否されないか、とか。


認めてもらえるだろうか、とか。


マイナスな方向ばかりに思考が傾く。


俺の、今まで全てを詰め込んだ。


絶望も


失望も


悲しみも


憎悪も


やるせなさも


微かな希望すら弾劾される俺の世界。


誰がそれに共鳴したいのだろう。


わからない。


スタジオに入る前、澤藤が一度足を止めた。


『……澤藤さん?』


恐る恐る声をかければ振り向きもせずにいう。


「お前が寝ている間、MV集見てたんだけどな。」


少しだけ顔をこちら側に向けた彼の瞳が潤んだように光っていた。


大げさなほどに引き結ばれた唇が微かな震えを伴って、開かれる。


「泣いたよ。」


「リンのプロデューサーとしてでなく、1人の人間、澤藤祐介として。」


「お前の歌を初めて聞いた時の衝撃もなかなかだったけどな。」


「でも、今のお前は間違いなくあの頃よりも進んでる。」


「驚いた、とかじゃない。感動した。」


「心が揺さぶられるってこういうことをいうんだな。」


澤藤の目にどんどん涙がせり上がってくる。


目頭を押さえながら天井を仰ぐ。


なんとか涙を押し込めた彼は笑いながら目を合わせて言った。


「お前はすごいよ、リン。」


「共感も共鳴も俺はできないけど」


「たくさんの人に共感したい、共鳴したいって思わせるお前の歌が。」


「それを作れるお前自身が。」


思わずポカンとした。


澤藤が乱暴に頭を撫でる。


真っ白な髪がぐしゃぐしゃに乱れた。


手櫛で整えながら、小さくありがと、と呟く。


澤藤が驚いたように一瞬止まってから頷いた。


「さ、行くぞ‼」


大人気シンガーソングライター 、リン。


ファーストアルバム発売、決定。

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ぷにぷに左衛門 - 続きが楽しみです! (2020年12月14日 20時) (レス) id: b1fc0b4e72 (このIDを非表示/違反報告)
桔梗(プロフ) - とっても面白いです!もう更新はしないのでしょうか? (2018年12月16日 23時) (レス) id: 8b992b69e6 (このIDを非表示/違反報告)
春日音尾(プロフ) - クロりんごさん» ありがとうございます。分かりにくくてすみません、男主です。レス、って言うんですね。初めて知りました……これからも読んでいただけるとありがたいです。 (2018年11月8日 15時) (レス) id: 9bf1cb7bb4 (このIDを非表示/違反報告)
クロりんご(プロフ) - タグに男主って書いてるんですが、これは女主なのでしょうか?後、レスは普通に投稿時間の後にある(←レス)という所を押せば出来ますよー。 (2018年11月8日 14時) (レス) id: 738c9471c2 (このIDを非表示/違反報告)
春日音尾(プロフ) - 枝豆将軍さん、ありがとうございます。至急直させていただきます。ご指摘、ありがとうございました。頑張らせていただきますのでこれからも読んでいただけると嬉しいです。 (2018年11月8日 9時) (レス) id: 9bf1cb7bb4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:春日音尾 | 作成日時:2018年11月3日 19時

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