８、氷漬けと迷いの森 ページ8
片付けはAさんが明日頑張るということで、夕飯は殆どがインスタント食品になった。
乾パン、インスタント味噌汁に冷凍ベジタブルミックスと乾燥わかめにお麩。同じくインスタントのマッシュポテト。
不味すぎて食べれないということはないだろう。
私はこれだけの食料を探し出し、そしてこれだけのものをほぼ一人で作り上げた自分に感嘆した。
……Aさんが乾燥わかめを袋の中身全部味噌汁に入れるという愚行を冒したために味噌汁は緑一色だが。
「まあ、食べられるものにはなったんじゃないでしょうか。わたくしにしては頑張ったほうです」
「貴方いつも何食べてるんですか」
「そこら辺のものを適当に。だから、こんなにまともな食事はすごく久しぶりです」
私からすれば、この食事はまともじゃありませんけど。
感覚の違いに愕然とする。
Aさんは呑気に何かを探して戸棚を漁っている。
「あ、見つかりましたよ。はい、割り箸です。どうぞ」
「どうも」
書斎までお盆を運んでいき、テーブルにつく。
いただきます、と手を合わせて箸を持つ。
ずっと無言のままだったが、八割ほど食べ終えてからAさんが話しかけてきた。
「そういえばずっと気になってたんですけど、条野さんって地元の方じゃありませんよね？」
「ええ、そうですが。なぜお分かりに？」
「地元の人たちはこんな陰気な森になんて来ませんよ。来るとき止められませんでした？ わたくしの知るところによると、巷じゃ迷いの森なんて呼ばれてて、入ったら二度と帰れないとか言われてるんですって！ だからわたくしみたいな引きこもりが棲み着くんでしょうけど」
けらけらと八重歯を見せて笑うAさん。
森に入ってきた人を前に、そんな話をするのはどうかと思うが。
「ええ、止められましたよ。でもたかが噂でしょう。まあ確かに、埃と蜘蛛の巣ばかりで、人が住めそうにもないですが」
「住めば都、という言葉があるんですよ──にしても条野さん、そういう噂信じないタイプなんですね」
「ええ、まあ」
また、無言になって残りを食べ進める。私が食べ終わったのを見計らって、Aさんは席を立った。
「ごちそうさまでした。食器、片付けてきますね」
インスタントばかりの食品は残念ながらあまり美味しくはなかったが、穏やかな食事の時間は悪くもなかったな、と少しばかり思った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 106人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鴎(プロフ) - 最高すぎて一気見しちゃいました〜〜！！続き全力待機してまってます！！ (12月28日 14時) (
レス) @page24 id: 5137519573 (このIDを非表示/違反報告)
みどりんご。(プロフ) - 橘スミレさん» バレたときの絶望感よ……って感じの気持ちでした。楽しく読んでいただけているとのこと、とても嬉しいです。執筆の励みになっています。これからも更新頑張りますね！ (10月8日 11時) (レス) id: fb98158056 (このIDを非表示/違反報告)
橘スミレ(プロフ) - 楽しく読ませてもらってます！ 私は�△�気になります。そして友人バレしたあなたにいいお知らせです。私は先輩後輩関わらず部員全員にネット上の名前がバレてますw性癖たっぷりな小説（一次）を書いてるアカウントもバレてますw 慰めになれば嬉しいです…… (10月7日 23時) (レス) @page10 id: 4832f2335e (このIDを非表示/違反報告)
六等星(プロフ) - コメント失礼します。いつも楽しく読ませて頂いています!欲張りですが、�△鉢�が読みたいです! (10月6日 0時) (レス) @page10 id: 3d2bece44f (このIDを非表示/違反報告)
るーかす(プロフ) - この作品大好きです！贅沢を言えば全部読んでみたいですが……！！1番読みたいです！ (10月5日 23時) (レス) @page10 id: 85f3bd2ffd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みどりんご。 | 作成日時：2023年10月1日 14時
