帝王の天使3 (ページ8)

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106話ページ8

母「ふふふ、貴方本当はわかっているんでしょう？でも、見ないふりをしているんだものねえ？幸せを知ってしまったら、それは毒のように体を廻って執着してしまう…聡い貴方なら、わかりきっているものね？

本当は『幸せ』が、『甘えられる場所』が、ほしくてほしくてたまらないのだものねえ？

でも誰かと居るとしおらしくなっちゃって…わかりやすいわよね？
大切なモノなんて持つから我が通せないのよ？我を通したかったら大切なものなど持っていてはダメ。
ただの首枷にしかならないんだから……今のAちゃんのようにね？」
腕を引かれたせいで、その真っ黒な瞳に呑み込まれそうになるが、なんとか自我を保ってその目に向きあう

そんなの、わかっていることだ。
確かに俺は、そんな幸せを欲しいと思わなかったことなんてない。
けれどそれ以上に、たとえそれが自身の首枷になったとしても、それほどまでに大事で、大切だからこそ、こうして今も向き合っているのだから。

自分のことなんて、もうどうでも良い。
彼らの笑顔が守れるならば、俺は喜んでこの人の傀儡にでもなってやる。

すると突然頬を撫でられる
母「そう威勢の良い瞳はとても素敵よ…ええ…素敵だと思うわ。
けれど、今の内に云う事聞いといた方がいいわよ？私、逆らう人間には容赦しないから。

貴方、今度は自分のものじゃなくて、『大切な誰か』を失うことになるわよ？」

ぞくりとする底冷えした声で、また俺の傷のある腹を撫でながらそう言葉を投げられる
震えそうになる体をなんとか鎮め、「肝に銘じておきます」と返した

母「ふふふ、そんなに怯えないでちょうだい？これでも私、優しくしているつもりだから。
大切なモノがある人間は弱い……貴方もそうよ、Aちゃん。貴方は良い子だから分かってるはずよねえ？『自分の首枷の先にあるモノたち』のことなんて。

Aちゃんはあの中の誰よりも強くて、優しすぎるんだもの。羅刹から菩薩が生まれるなんて、滑稽にも程があるわ」
カラカラと笑って、哀れなものを見るかのように嗤われる

昔から、母はこのような人だった。
母が俺以外の人と共にいるところは実際ほとんど見たことがなかったし、夫婦としてどんな関係だったのかさえもあまりよくわからない。
兄や弟、妹は自身の母がどんな人かも知らないと言うくらいで、母との関係が深かったのは、本当に俺だけだった