208、愛で溢れて（別視点） ページ13
男は苦しい息の中、自分のものではない体温を感じて目を開けた。
男の妹、Aが水の中浮き上がろうともせず、只兄を抱きしめて笑っている。
(一緒にって、約束…)
男が一方的に交わした約束だった。
Aはそれを覚えていて、そしてそれを果たそうとしている。
由佳が命をかけて守った人。
…そう、男は知っている。
口では否定を重ねても。
もう二度と由佳はこの手に戻ってこないという事を。
だからか、男は実の妹を本気で憎んだ。
最愛の人が死ぬくらいなら妹が死んでくれた方がよかった。
そう本気で思ってしまうくらい、由佳の事を男は愛していた。
(A、いいのかい？あの茶髪、好きなんだろ？)
Aの表情を見てすぐに分かった。
茶髪…沖田をAは愛していると。
だから目の前で最愛の人を奪い、自分の悲しみを、苦しみを知ってもらおうと思った。
Aは、そんな男の醜い心を、憎しみを知っていたのだろう。
知っていて、Aは選んだのだ。
最愛の人を残して去る事を。
全てを捨てて憎しみの対象として死にゆくことを。
恋人の生きる道を残す為に。
(由佳…、Aは、…いや、オレも、Aと一緒にそっちに、)
Aの力が抜けて行った。
ふわり離れていくAの体を引き止める。
(……でも、Aはオレの妹で、)
本当は分かっていた。
Aは何も悪くない事を。
あの日、由佳をひいたトラックは飲酒運転で、あの日に由佳と一緒にこの世を去っていた事を。
Aは男の生きる糧として、憎しみの対象になる事を自ら選んでいた事も。
分かっていて、知らないふりをしてきた。
ふと上を見上げれば、男には黒色が目に入った。
茶色の髪を水に靡かせ、赤い瞳をこれでもかと開く男の姿。
身体中から血を流して、それでも。
気が付けば男はAの体をそれへと預けていた。
(ごめん、弱い兄で)
結局、Aにずっと救われていたのは男の方だった。
最愛の人に出会わせてくれて。
最愛の人を失った時そばにいてくれて。
復讐相手を自ら買ってくれて。
一緒に死のうと一方的に告げた約束を守ろうとしてくれて。
全てを捨てて男の心を助けようとしてくれて。
(A、君は幸せになっていいんだ)
沈んでいく意識の中、引き上げられていく妹の姿が確かに視界に入った。
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つむ(^p^)**(プロフ) - 思わずキュンとしてしまう場面が多々あり、沖田の純愛ぶりにはとても胸が熱くなりました。本当に大好きです。長文失礼しました。これから先もずっと見返して、また感動したいと思います！ (2022年1月11日 1時) (
レス) id: 7bdd5c1516 (このIDを非表示/違反報告)
つむ(^p^)**(プロフ) - 2年越しとか笑えないくらい経ってからのコメント失礼します。夢主ちゃんの芯の強さにも心惹かれるものがあったし、作中で出てくる女の子たちもみんな根が優しくて夢小説という括りを超えて純粋に感動出来た作品でした。夢主ちゃんと沖田にはこちらも (2022年1月11日 1時) (レス) @page19 id: 7bdd5c1516 (このIDを非表示/違反報告)
からし(プロフ) - 瑞稀さん» ここまで読んで頂き有難う御座います！面白いと言って頂けてとても嬉しいです^_^ (2020年4月16日 21時) (レス) id: 926dbf1062 (このIDを非表示/違反報告)
瑞稀(プロフ) - めちゃめちゃ面白かったです…！！！一気読みしてしまいました笑 完結おめでとうございます！ (2020年4月16日 21時) (レス) id: 503fd2a4ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：からし | 作成日時：2020年4月6日 23時
