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116◆私は何も知らない◆ ページ23



――あれは誰?

水色の、色素と影の薄い男が眼を見開き、驚愕した表情を浮かべている。
私はそれを、知らないと呟く。

――ではこれは誰?

桃色の、愛らしい少女が表情を苦痛に歪ませながら、ただひたすらに懺悔している。
私はそれも、知らないと答える。

そう。知らない。私の記憶に、そんな色彩はただの一度もない。
私の知る色彩は、灰色と、白と、黒と、それから赤。

一番最初。気分が悪くなるほど清潔な白い世界の中で鮮やかに灯ったその燃えるような赤を、一生忘れることはない。
あの赤色さえあればいい。あの灼熱の赤い焔色を宿した男だけいてくれれば、他はどうだっていい。

水色の男も、桃色の女も、自分の世界には必要ないのだ。

それなのに――と考えて、衝動のまま吸いかけであった煙草の火を灰皿へ乱暴に擦り付ける。
灰皿には煙草が何本も捨てられており、しかしその全てが半分ほど長さが残されていた。

Aはそれを気にせず次の煙草を吸おうと箱を開けるも、その指は煙草を掴むことなく空を切り、思わず舌打ちをする。


「……ックソが、」


空になった煙草の箱を握り潰し、壁に向かって投げ捨てる。今日の分の煙草を全て消費してしまったため、新しいものを買いに行かなければならない。だが、どうも外へ出る気分になれなかった。

朝起きた時のまま敷かれぱなしの布団へと倒れ込む。
眼を閉じても、脳裏に浮かぶのは目障りな色彩を持つ者達ばかりで。
Aは、イライラをぶつけるように、手身近にあった枕を壁に投げ付けた。

奴等は、Aの心をよく乱してゆく。それがAは気に食わず、奴等にも、そして乱される自分自身にもイライラを募らせる。

どうして、平静でいられないのだろう。
どうして、自分を制御できなくなるんだろう。
こんなこと、今までなかったはずなのに。

どうして、どうして、どうして――

わからない。何も。これまで兄以外の人間に対して執着してこなかった自分が抱いた、初めての感覚。
その感覚に飲まれるたび、頭の奥がズキズキと痛んだ。
まるで何かの警報のように。ともすれば、くだらないことに意識を奪われている自分を罰するように、鈍く深く締め付ける。


「……、痛い…」


耳を塞ぎ、布団に顔を埋める。背を丸め足を抱え込んで小さくなる姿は、まるで外敵から身を守ろうとする幼子の様子そのものであった。


「助けて、大我…」


うわ言のように小さく呟きながら、Aは眼を閉じ、微睡みへ沈んでいった。

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設定タグ:黒子のバスケ , キセキの世代   
作品ジャンル:アニメ
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あかりんご(プロフ) - ずっっっと待ってます、また更新してくれるのを楽しみに待ってます! (2021年4月11日 16時) (レス) id: 9550685691 (このIDを非表示/違反報告)
何卒 - 続き待ってます…。不安定な所での更新停止中なので何だかウズウズしてしまいます…。 (2020年2月9日 3時) (レス) id: 58baba6999 (このIDを非表示/違反報告)
ミズキ - こ、ここで?ここで更新停止中なの?!めちゃくそ気になんじゃん…更新頑張ってください!楽しみにしてます! (2019年11月21日 18時) (レス) id: da8ce484b3 (このIDを非表示/違反報告)
紫水(プロフ) - とてもおもしろくここまで読ませて頂きました!この後キセキと真白ちゃんがどうなっていくのか、とても気になります…!お話の続き、待ってます!! (2019年11月2日 13時) (レス) id: 4db15d5771 (このIDを非表示/違反報告)
honoka1013(プロフ) - この続きがとても気になります。更新を再開してくれませんか?楽しみにしています (2019年9月3日 15時) (レス) id: f57eb90381 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:縁樹 | 作成日時:2016年12月24日 5時

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