メイビー▽ ページ4
すり、と肩に摺り寄せられる重みに思わず背筋が伸びる。
彼の髪が首筋を触ってくすぐったい。｢やめて｣と引き剥がせば不満そうな顔をされた。
｢ねぇ、やっぱりダメ？｣
何が、なんて聞かなくてもわかる。
かわいさを装った声も、上目遣いも、どこか怪しく光る深紅の瞳も。
私には、分かる。
けれど、私は少し怖くなってしまう。
怖くなって、逃げてしまう。
「……じゃあ、瀬名先輩のチョコ貰おうよ」
適当なの取ってくるから。ね。
さりげなく、察されないように、彼の傍を離れたはずだった。
私の強がりや虚勢なんてものは彼に通用しないわけで、腕を引かれたと思えば彼の膝の上に座らされる。
前に回された腕が、ぎゅっと強く私を包んだ。
近い。それはもう、後ろからの吐息がかかってしまうくらいに。
「A、なんか様子おかしいよ」
そう言って彼は私の髪を撫でる。
図星も図星、私は黙っていることしかできなかった。
それを呆れたのか面倒に思ったのか、凛月くんははぁ、と一つため息を隠そうともしない。
「……別に無理にはせがまないからさ。
負担は少なかったけどAも疲れてるだろうし、今日はいいかな」
する、と衣擦れの音と共に私を包んでいた温もりが消える。
後ろを振り返らなければ表情は伺えないけれど、それが酷く怖かった。
わたしが一方的に逃げているだけだとしても、縋りたい希望や理想に蓋をしてしまう。
「……ごめんね、凛月くん」
「いいよ、Aが嫌なことはたぶん俺も嫌だから」
「……ごめん…」
『たぶん』か、なんて、いちいち引っ掛かっては気にしてしまう自分に嫌気がさした。
怒りでも嫌悪でもないような、けれど変に嫌な気分で、取ってつけたような謝り方しかできない。
夢は夢でも悪い夢なんて、心を抉ってしまうだけで。
強烈に瞼に焼き付いたそれは、視界いっぱいに濁ったフィルターをかけてしまう。
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作者名：雫月 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年2月14日 23時
