オフモード▼ ページ2
「いいこと、って何？」
そう言ってAはふあぁふ、と嚙み殺しきれなかった欠伸をひとつ。
Aが眠そうに目をこする仕草、ましてや欠伸なんてそうは見ないものだから、ちょっとした優越感に支配される。欠伸のせいで潤んだ茶目が蛍光灯の光をめいっぱい吸収してまっすぐに俺を見つめる。
友達以上の関係となって少し経った今ではもう慣れているはずのその距離が、今日はやけに近く感じて胸が鳴る。
彼女の珍しい「オフ」モードだからかもしれない。
あぁ、かわいい。
腕を腰に回して自分のほうにグッと引き寄せる。
「わ、わ、ちょっとっ……」
「眠いんでしょ？A。
ライブ……ショコラフェスも無事に終わった訳だしどうせなら一緒に一眠りしようと思って……♪」
「いっ、嫌だよ……怖いっ」
「大丈夫、血は多分我慢するからさぁ？」
絶対吸わない、って保証はしないけどね。なんて俺はAの耳元で笑う。
そういうことじゃなくて、と何故だか少し怯えた表情で彼女は俯いた。
じゃあ血を貰ってもいいのと問うても、それは違うらしい。
じゃあ、一体どういうこと？
「……凛月くん、ひとの話全く聞いてない」
少しためて吐き出された言葉は、そう簡単には真実を教えてくれない。まぁ今回は、Aの話をちゃんと聞いていなかった俺が悪い、らしいのだが。一応聞いていたつもりではいるけれど、生憎眠気が勝って大事な部分を聞き落としている自信がある。ごめんごめん、と謝るとうん、とか細い声。
縮こまる頭を安心するよう優しく撫でながら、「大丈夫、俺がずうっとそばに居るから…♪」なんて珍しく「お兄ちゃん」ぶってみる。年齢的な事はともかく、今の自分たちは｢恋人同士｣であって｢兄妹｣なんて形容するような関係とはまた別なのだけれど。
｢凛月くん｣
｢ん、なぁに、A？｣
｢…その…この体勢…わりと恥ずかしい、です｣
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作者名：雫月 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年2月14日 23時
