チョコレイト▽ ページ6
ぎゅっ、と手を握られた。
見なくたって分かる、じんわりと心地よい彼の暖かさが直に伝わる。
「ゆっくりでいいよ」なんて機嫌のよさげな声でいうものだから、話の途中で寝落ちてしまうんじゃないかとくだらない思考にふける。
「今この瞬間は違うけど、普段の私たちの関係って『アイドルとプロデューサー』でしょ?
舞台の表がアイドル。裏がプロデューサー」
そう、あくまでプロデューサー。
アイドルのことを誰よりも知っているけれど、それはビジネスパートナーとして、ビジネスとしての話に過ぎない。
「プロデューサーはアイドルの育成に尽くすけど、アイドルが尽くすのはファンに対して。
……プロデュースはすごく楽しいしやりたくないというより寧ろもっとやりたいよ、でも」
「はい、あ〜ん。口開けて〜」
「え……んぐっ」
半ば無理やりに、突然口内に押し込まれたそれは、舌に乗った瞬間ほろりと崩れていく。
苦いような、甘いような。直ぐに溶けてなくなったはずなのに、いつまでも舌に味が残るチョコレートだ。
当の凛月くんは、いたずらな笑みをたたえて私の反応を見ていた。
形のきれいな艶やかな唇がおもむろに開く。
「おいしい?」
「……うん、おいしい」
「じゃあ、もう一個」
クラスの友達用に配ったのか、もう一粒個包装の小さなチョコレートを取り出した彼は、それを私に見せつけるようにずい、と近づける。まるで恋心のような心地よい甘苦さがした生チョコレートは、そんな美味さを全くもって感じさせない奇妙な色形をしている。
具体的な表現をしようとすると、まずどこからどう述べていいか分からないほどだ。
「ほら、美味しいから、食べてごらん」
ほんの少し悪戯心の混ざった笑顔と、自称チョコレートの何かが迫る。
確かに彼はお菓子作りがうまいしさっきのチョコレートも文句なしにおいしかった、おいしかったけれど、中身の味がわかっていてもこの見た目で「食べろ」と言うのはいささか無理があるように思える。
「全くもう、しょうがないなぁ」
頑なに口を開かない私に観念したのか、凛月くんはテーブルにチョコレートを戻す。
そして一つ舌なめずりをして、元から近かったその距離をもなかったことにしてしまったのだ。
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作者名:雫月 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年2月14日 23時