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数日後、営業後に井上さんは本当にAちゃんを連れてきた。
「Aちゃん」
「……宮田さん」
「それでは、宮田さん」
「ありがとう、井上さん」
「絢子ちゃんいてくれないの?」
「二人で話すべきだよ」
井上さんがいなくなってシャッターの前で二人きりになる。
「ちょっと行こうか」
「どこにですか?」
「アーケードの外には出る」
自分のホームじゃ駄目だ。
ホームでもアウェイでもない所に行かないと意味がないと思った。
だけどこの市内でそういうロマンチックな所はないに等しい。
大概の若者は遠出してロマンチックなところに行く。
しょうがないから夏雲駅周辺を歩くことにした。
アーケードを出て少ししてAちゃんが口を開いた。
「宮田さん。……私、宮田さんといて疲れました」
「…………」
やっぱりそうだったのかと思いながら彼女を見る。
「宮田さん誰にでも優しいから勘違いしてしまいそうになるんです。いつまで経っても宮田さんのテリトリーに入れなくて……もう嫌になりました」
俺は立ち止まる。
Aちゃんも立ち止まって俺を見上げる。
「つまり、Aちゃんは……」
言わせようとするなんて自分最低だなと思いながら言葉を口にする。
「……そうですよ。宮田さんが出版社にいるときからずっと宮田さんのことが好きなんです」
今までぼんやりとなっていたものがはっきりとなる。
告白を真っ直ぐ受け止めれば。
「あのね、Aちゃん」
そう言いながらまた歩き出す。
今度は俺の番だ。
「振り返ってみれば俺は君が眩しかったんだと思う。ちゃんと夢や希望を持って入社してきたAちゃんが。俺は将来星雲書房を継ぐことを決めてたし、出版社に入ったのは勉強がてらだったから。それで陰口も言われたりしたっけ」
ゆっくりと歩きながら自分の想いを整理する。
今更かもしれないけど伝わって欲しい。
「星雲書房を継ぐことになって出版社を辞めるってなったとき、Aちゃんはもっと俺と一緒に仕事をしたかったって言ってくれて嬉しかったな。俺もAちゃんと一緒に仕事してて楽しかったから」
「それ、本当ですか?」
「うん。……今まで言ったことなかったね」
ありがとうは何度も言ってたと思う。
だけど一緒にいて楽しいとか嬉しいとかの感情は言ってなかったと気付く。
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作者名:ユタカ2 | 作成日時:2021年11月23日 14時