帰ってきた「君のその手に」

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「おはよ、伊藤、あの後大丈夫だったか？」



開口一番、誰もいないオフィスに相変わらず一番乗りの崎本部長に声をかけられる。



「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。」





深々と頭を下げた。
いくら崎本部長の前だからって私達夫婦の醜態を晒しすぎたよ。恥ずかしい。




「あれから発作出てない？」


「大丈夫です。もしそうなっても紙袋持参してきましたから、これで乗り切ります。」




ほんとは、あの後すぐにもう一度息が出来なくなったけどそれをわざわざ報告する事もない。
でも、崎本部長はそんな私の顔を困ったように見てから




「北山、怒ってただろ、」



なんて言うから私も苦笑いだ。



「崎本部長との事めちゃくちゃ妬いてるんですよ。ほんと、困った人です。」


「やっぱりか。悪いな、俺が原因で揉めるとか申し訳ない。話だってこうして社内ですべきだったよな。」


「いえっ、そんなっ。気にしないでくださいね？」


「あいつなー、何もないって言ってんのに。伊藤の事好きすぎるんだろな。」







「･･･そんな事ないですよ。宏光は、私の事結婚したパートナーとして心配してるだけです。」





･･･何でそんな風に言ってしまったんだろう、
ここ数日の鬱憤をここで晴らそうとしてどうしたいの、私はっ、







「おまえっ、･･･変だぞ？なんかあった？」


「っ、だって、宏光はっ、宏光はきっと桐谷部長の方が好きなんだと思いますっ、」




ダメだっ、相手は全て受け止めてくれる崎本さんなんだもん、絶対甘えちゃいけない人に甘えようとしてる自分に嫌悪っ、





「あのっ、すみません、なんでもないです、ちょっと喧嘩しちゃって。愚痴ってごめんなさいっ、」


「ちょっと、場所変えよう、」





慌てて取り繕うも、崎本さんは見逃してくれない。
私ってば藤ヶ谷がいないと崎本さんに頼っちゃう訳？
最低だ。
こんな時に藤ヶ谷がいつも私の全てを受け止めてくれて、私はその存在に助けられてたんだって改めてよくわかる。



藤ヶ谷がいなくてももうやってけるって思ってたのに
私はどこまでも狡くて弱い女だ。








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