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クチナシの顔を上手く見れずに、俯いたままクチナシを押しのけて交番に入ろうとするが、それを許してくれるクチナシでは無い。
「もうおじさんの顔もみたくないってか?」
「違う。でも今は見たくない。」
正直にそう話すと、頭を撫でられる。
「おじさんが悪かったよ。すまねえな。」
その声色が優しさで溢れていて、どうにもやりにくいと、撫でられた頭を手で触る。
「…………おい、また傷増えたな。」
ギクッ、と固まる。
「気のせいです。」
思わず敬語になってしまう。怪我に神経質なのはアララギよりもクチナシだったと思い出し、Aは冷や汗を流す。
そういえば暑くてグローブを取ったままだったと思い出した。
刀を持って、或いは魔具をもって戦っているどこかの空想の人物に描写される傷に負けず劣らず裂傷や凍傷のあるAの手をクチナシは握る。
「傷増えてないもん…」
嘘だ。増えている。
「全く、しょうがないガキだな。手当てするよ。」
「!!嫌だ!しみる!」
そう。クチナシはオキシドールをたっぷり使うタイプの手当をする人間なのだ。
痛くて逃げようとしても恐ろしい力で押さえ込まれたのを思い出して身震いする。
バタバタとその場から逃げようとするが既にガッチリクチナシに抱えられている。
「いやだー!ハシモトー!助けて〜!」
唯一手が届いたジャローダが入っているボールを投げて、ジャローダを出す……が、暑いのが嫌なのかすぐにボールに戻った。
「ニャース〜…!」
『スニャーン…』
アローラニャースはうるさいと言わんばかりに顔を埋めて寝ている。
「かけるぞ〜」
今この瞬間はクチナシの事が大嫌いになった。
「いったーーい!!!!」
Aの痛がる声が交番内に響く。
キバナは自分が本当にここに居るのかさえ分からなくなってしまうほどに空気扱いされていることに驚いた。
Aと一瞬も目が合わず、イッシュで過ごしたあの日々が幻かと思うほど意識されていない。
出会い頭にビンタの1発もらうことくらいは覚悟していたが、完全空気扱いは考えていなかった。
寧ろビンタされたほうがマシと思えるくらいキバナの存在を無いものにされていた。
無理やりではないが不意打ちでキスした前科がある手前、前のように気さくに距離を詰めることはもう出来ない。
そして手当てを受けているAの手を見てキバナは目を瞠る。
大きめのグローブに隠れていた手は、思ったよりずっと華奢で、小さくて、傷だらけだった。
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影裏(プロフ) - レスありがとうございます!!!クチナシさんとの絡みも楽しみです! (2022年6月13日 8時) (レス) @page13 id: 54dee88f37 (このIDを非表示/違反報告)
影裏(プロフ) - めちゃおもしろい、、これからの展開が気になります!!更新頑張ってください! (2022年6月12日 4時) (レス) @page13 id: 54dee88f37 (このIDを非表示/違反報告)
珀琥(プロフ) - 続編おめでとうございます!これからも応援してます (2022年4月24日 15時) (レス) @page2 id: 8db741d522 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:モンブラン | 作成日時:2022年4月23日 19時