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「菫ー!こっちこっち!」
「あっ、お兄ちゃん待って……!」
小柄な少年が可愛らしい笑みを浮かべて、少しだけ遠くにいる少女に向かって手招きをする。そんな可愛いらしい二人の少年少女の背景はおおよそ似つかわしくない。
小さな橋のかかった池の中には鮮やかな鯉が泳ぎ、その周辺には石灯篭が並ぶ。そんな庭の周りをぐるりと囲む大きなお屋敷があり、近くには明らかに一般人ではないとわかる黒いスーツの男達が二人を見守っている。
およそ7歳ほどの幼い少女が、兄と呼ばれた少年へと駆け寄る。すると少年は後ろに隠していたものをパッと目の前へと持ち出し少女に見せる。
「これ……!」
少女の目がキラキラと輝く。少年が差し出したのは、シロツメクサを編んで作った冠だった。少し前に、少女がシロツメクサの冠が載った絵本を見ながらポツリと「いいなぁ」と呟いたことを、少年は覚えていたのだ。
少年は少女の頭に優しく冠を乗せると、そっと微笑む。
「うん、すごく似合ってる!まるでお姫様みたいだ!」
「えへへ…そ、そうかなぁ?」
冠の乗せられた頭をそっと触りながら、頬を染めてはにかむ少女。背中ほどの長さはある少女の黒い髪を、少年はそっと手で掬いとって口を付ける。
「うん。とっても綺麗だ。ふふっ、大好きだよ菫」
その瞬間、ぐにゃりと少年の姿が歪み青年の姿へと変わる。青年は変わらず、壊れ物を扱うかのような手付きで少女を撫でている。
少女は途端に表情を失った。
(ああ、なんだ。夢か)
そう認識した直後、少女の意識は急速に浮上を始めた。
───パチリ。
目が覚めて、まず視界に飛び込んだのは見慣れた兄の顔。女が羨ましがるほどの白い肌と整った容姿も、見慣れてしまえば何とも思わなくなる。
私が目を開けた事を確認した瞬間に兄は破顔する。ああ、いつもの兄だ。いつもの朝、いつもの光景。少し兄との距離が一般的な兄妹よりも近すぎるような気もするが気のせいだと言い聞かせる。
さて、起きようと思うのだけれど、兄が上に乗っているせいで起き上がる事が出来ない。退け、という意を込めて力一杯体を押すが、さすがに鍛えているだけはあって女の力ではビクともしない。
「退いて、兄さん」
淡々と言えば、兄は「菫が冷たい!」とわざとらしい泣き真似をしながらも、前に言っても退かなかったから最終手段で頭突きをして急所を膝蹴りしてやった事から学習したのか最近では言えばきちんと退いてくれるようになった。
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アイリス(プロフ) - 鎖月零さん» コメントありがとうございます!わわっ、ナッシュの方まで見て下さっているとは…!こんな嬉しい感想をいただけるとは思っておらず、本当に嬉しいです!!ありがとうございます! (2018年1月1日 20時) (レス) id: d640732e88 (このIDを非表示/違反報告)
鎖月零(プロフ) - こんにちは、ナッシュの小説も大好きでこちらに来ました!やはりわかりやすく想像しやすい描写が素晴らしいです!!!今後の展開にも期待してます!!頑張ってください! (2017年12月30日 21時) (レス) id: e5c976073b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アイリス | 作成日時:2017年12月30日 20時