氷兎-115 ページ22
「なんでああなったんだ?あんな藍野見たことないんだけど…」
「誰もないと思うけどな…」
土田がボソリと言う。
実にその通りであった。
Aは今まで表情を変えたりせず、生きている人形のようだった。
人間らしさは微塵も存在せず、ただ食べたり歩いたりするだけの人間の真似をした傀儡にしか見えなかった。
だが、そんな虚融澹泊なAがある変化を見せた。
今吉から逃げ出し、震えてうずくまり、さらに逃げる姿。
しかし、今吉だけから逃げたのではない。
彼女が今さっき見せたのは、『見えない何か』に抵抗し、左右される姿であった。
「とりあえず伊月君はAちゃんを運んで。パパに迎えへ来てもらって体育館に直行するわよ。私の家へ連れて行きたいのはやまやまだけど…まず荷物を取りに行かないと。手当ては私がするから安心して」
「わかった。けど、休ませなくていいのか?」
「ここで休ませたら今吉さんと遭遇するかもしれないでしょう?会ったらどうなるかわからないもの」
リコは鋭い目つきで言った。
だが、時すでに遅し。
もう既に―――
「それなんですが、カントク。さっき藍野さんと今吉さんが居合わせましたよ」
「「「「「はあ!?」」」」」
いきなり黒子が、今吉とAが居合わせたという事実をぶち込む。
案の定、黒子以外の誠凛バスケ部員は一瞬硬直したあと、瞿然とした形相になる。
火神は黒子の肩に掴みかかる。
こめかみがピクピクと痙攣しており、怒りに満ちている事が誰からでも伺える。
そしてそれは、火神に限った事ではない。
「何で言わなかったんだよ!!」
「とてもじゃないですが言える状況じゃなかったので…」
黒子はほんの少し目尻を下げながら言った。
いつもだったら黒子へ制裁を与えるだろうが、今はそんなことをやっている場合ではなかった。
一刻を争う自体なのだ。
その場にいない人や他人なら、たかがその程度と思うかもしれない。否、思うだろう。
だが、ゆっくりのんびりとしてる暇などない。
命令がなければ行動しないくらいに意思を持たず、自分でさえを他人事にするあの彼女が『自分の意思』で逃げたのだ。
感情がないと云っていたのは置いておくとして、これは余程のことがあったとしか思えない。
「とりあえず帰ったら聞くわ。まずはさっさと戻るわよ」
体育館へ帰り、黒子は今吉がAに詰め寄っていた所に遭遇した事を話し出すのだった。
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霧芽 栞(プロフ) - 藍華さん» コメントありがとうございます!この夢主ちゃんは結構考えて作ったのでそう言ってもらえて嬉しいです!更新頑張ります! 誤字・・・恥ずかしいです。ご指摘ありがとうございます! (2015年1月1日 15時) (レス) id: a7aa7963e8 (このIDを非表示/違反報告)
藍華(プロフ) - すごく面白いです。設定ブレしないところとか尊敬します…!更新頑張って下さい!あと、失礼かとは思いますが…半ば(なかば)がはんばになってますよ! (2014年12月30日 20時) (レス) id: a2cd4c3dee (このIDを非表示/違反報告)
霧芽 栞(プロフ) - ギアさん» 楽しみだなんてありがたいお言葉ありがとうございますっ!!もっとおもしろく表現豊かになるように精進しますヽ(・∀・)ノ (2014年12月10日 19時) (レス) id: a7aa7963e8 (このIDを非表示/違反報告)
霧芽 栞(プロフ) - 瑠璃音さん» 入り込んでもらえて嬉しいです!(*´∀`*)こういう夢主ちゃん書きたかったんです。少しずつ変わっていく夢主ちゃんを見ていただければなあ、と思います! (2014年12月10日 19時) (レス) id: a7aa7963e8 (このIDを非表示/違反報告)
ギア - とても面白いです。更新頑張ってください。楽しみに待ってます! (2014年12月9日 22時) (レス) id: d4a7c15fe4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:霧芽 栞 | 作成日時:2014年10月19日 21時