繊月が閉じる時【宝石の国】 (ページ32)

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番外ページ32

「…無いな。」

質問の内容に少し驚きながらも、ブラッドストーンは答える。
答えを聞き、クリソコラは少しだけ悲しそうに俯いた。

「そう、か。」

クリソコラは考える。
その顔はどこか儚げで、どこか弱々しい。
こんな顔を見たのはブラッドストーンは初めてで、またも驚かされる。

「俺な、月に行きたいんだ。」

微笑みながらクリソコラは言った。
暗さなど何処にも無い、明るい笑顔でそんな事を言う様はブラッドストーンの心を刺激する。
もちろん、悪い意味で。

「な…そんな事！そんな…っ…。」

だんだん、言葉は弱まっていく。
クリソコラの顔がいつの間にか痛ましげな微笑みに変わっていたからだ。

「これからも誰かが月に行っていく、そう考えると月に行った方が楽なんじゃないか…って。」

クリソコラは頭を動かし、明るく青い空を見つめる。
空を映す青い目の奥には、様々な感情が混ぜ合わせられた器があって。
それはもうボロボロに、見るも無残に朽ちているのだろう。

「………でも。」

ブラッドストーンは口を噤み、俯く。
青い空が赤と黒が混ぜ合った髪を静かに照らす。

「なーんて、な。困らせるつもりは無かったんだ、ただの冗談さ。」

そのブラッドストーンを見て、一瞬悲しげに眉を歪めたあとクリソコラは明るく笑いながら言った。
その笑みを見れば、ようやくブラッドストーンも明るげに微笑んだ。
風は、二人の間を通り過ぎていく。

「全く、クリソコラ殿は。」

口ではそう言っているものの、ブラッドストーンの顔は明るげだ。

「はは、すまんすまん。さて、帰るか。」
「そうだな、仕事も済んだことだし。」

先に、ブラッドストーンが学校へ向かい歩き出す。
同時に風は大きく騒ぎ出し、草を揺らした。

「……全部嘘だったら楽なんだがな。」

草が擦れ合う音と風が騒ぐ音は、クリソコラの呟きを掻き消す。
直後。
全く着いてこない様子のクリソコラに心配したブラッドストーンが後ろを見れば、大きく目を見開き、そのまま武器へと手を伸ばした。

「月人っ…！クリソコラ殿！」

ブラッドストーンが叫ぶ。
ようやくそこでクリソコラは月人の存在に気付き、飛んできた矢を急いで躱せば腰に着いているハサミを手に持った。

「ブラッドストーン、一気に攻め込むぞ！」
「承知した。」

クリソコラは強く武器を握り直す。
同じタイミングに駆け出した2人の足は、地面を強く蹴った。