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泣き虫 ページ20

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あれ、俺寝てる?


水の中を揺蕩っているような不思議な感覚に、ああ自分は今寝ているのだと悟った。

少年院での出来事を思い返しながらどうしたんだったかと脳を働かせる。



「おーい、A?」


「ぇ……」


「あ〜良かった。起きたね」



嗅いだ事のある消毒のにおい。

パチパチと瞬いて焦点を合わせると、どうやら俺が寝ているこのベッドに頬杖をついて微笑んでいるのは五条先生らしい。

何度か深呼吸して、乾いた喉を震わせる。



「ごじょ…せん、せ…」


「あ、喉渇いてるよね。身体起こせる?」


「は、い…」



固まってしまっている身体をギシギシと何とか動かして、先生に支えられながら上体を起こした。

渡されたペットボトルにはご丁寧にストローが挿さっていて、カッサカサになった唇で咥えて水を吸い込む。


喉が潤った所で五条先生は居住まいを正し、少年院であった事を伝えてくれた。









「……え…?」


「死んだの。悠仁が」


「え…いや、え、そんな…」



冗談でしょう?って聞き返したかったけど、ダメだった。

珍しく目隠しを下ろした先生が長い睫毛を伏せて頬に影を落とす様は、とても冗談を言っているようには見えなかったから。


生温い温度が頬を伝う感触に、本当に自分は泣き虫だなぁと再確認させられて。

泣かないで、と伸ばされた手にぐしぐしと涙を拭われて、余計に涙が溢れて止まらなくなる。



「長生きしろって、言ってたそうだよ」


「ぅ……ッふぅうう…」


「泣かないで。僕も泣いちゃう」



そっと抱き寄せられて、ポンポンと背中を叩かれる。

嗚咽を漏らしてぐずぐず泣き続ける俺が服を濡らすのも構わずにぎゅうぎゅうと抱き締められるものだから、思わず「う"っ」と声を上げた。


ごしごしと自分で涙を拭って体を離そうとした時、ベッドの周りに引かれていたカーテンが勢いよく開かれる。



「一色!目ぇ覚めたのね。良かった」


「おはよう。身体、どうだ」


「おはよ。まあ大丈夫だと思う」


「はあ?あんた脚の骨折れてたのよ?そんないきなり大丈夫になる訳ないでしょ」



心配の色を滲ませた眼が眇められて、パチクリと瞬く。



「っえぇえええぇえ!!!?なにそれ初耳!やだやだ俺の脚どうなっちゃったの!?ねえ先生!!」


「あははははっ、よしよし通常運転だね!」


「うるせぇ…」



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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2021年4月29日 19時

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