藤の華 ページ7
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朝が来て日を避けながら、二人の隣を歩く。元々木が多いお陰で、二人には気付かれる事はなかった。麓が近くなるに連れて、木も少しずつ減っている。
ゆっくり、ゆっくりと距離を置く。紫の花が見え、平らな地面が見えて来る。どうやら麓に着いたようだ。
?「…錆兎?真菰?」
麓に着くと近付いて来たのはボロボロで、手当てを施された一人の男。錆兎と真菰は気付くと、一心不乱で其奴目掛け走った。
錆「義勇!」
義「こ、怖がっ"だぁ"…」
真「私達も怖かったし、心配したんだよ…」
潮の香りがする。泣いておるのか、仲の良い若人達。では、これでおいとまさせてもらうぞ。
せいぜい長い事達者でな。
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義「そう言えば、二人はどうやって生き延びたの?」
真「私は走って逃げていたけど、錆兎は獣姫に助けられたんだって…」
義「……獣姫…?」
錆「こっぽりを履いた女の子だ。ほら、あそこに…」
義「…誰もいないよ?」
錆「!そんなはず……」
後ろにある藤の木の方を振り返ると、そこにいたはずの獣姫の姿はなかった。音もなく消えた彼女が立っていた場所には、犬の足跡の様なものだけがあるだけ。
ずっと気が動転していたせいなのか、獣姫は俺達の見た幻だったか、もしかしたら狐に化かされていたのかもしれない。だがあの時握っていた彼女の、手の温もりは確かだった。
また会えるよな。そんな淡い期待を心に抱いて、俺達三人は選別で生き延びた事と再会を嬉しく思った。
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山中を下っていると、紫の花をまた見つけた。錆兎がこれを藤、と呼んでおったな。
__鬼は皆、藤の花の匂いを嫌う。
昔、旦那様の言っておった言葉を思い出す。人間は、その鬼の特性を活かし、藤の花をお守りとしても持っているらしい。本来の鬼ならば近付きもしないそう。
花を一房千切り手に取る、とてもいい匂いだ。
やはり半分人の身だからだろうか、こんな木々に囲まれておりながら不快には思わないのは。旦那様がこの様子を見たら、すぐ卒倒してしまうやもしれん。
鬼でも人でもないとは、なんと不便なのだろうか。
凛「…鬼の如く不死身にこはし…、人の如く脆くいたづらなり…、獣の如く気高くとし…」
藤の花をもう一房千切り口に咥え、獣の姿に変わる。
まだまだ腹は満たされず、異形一匹では満たされぬ。次は何処に行かむやな、次は何奴を食はむやな…。
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ある日、藤襲山から離れた村では、こう言う噂が密かに流れた。
『藤襲山の麓から鬼が逃亡した』、『野獣の様な娘の鬼だ』と。
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虚(プロフ) - とても良い作品ですね!お気に入り失礼します!好きです(((更新楽しみにしています! (2020年3月7日 0時) (レス) id: 7c0e52b0b9 (このIDを非表示/違反報告)
Graecia devil sardine(プロフ) - ユラさん» コメントありがとうございます!前に遊んだスマホアプリに出てきた女の子の話し方を真似てみました。 (2019年11月23日 12時) (レス) id: 890b359372 (このIDを非表示/違反報告)
ユラ - 面白いです!夢主さんの喋り方めっちゃ好き… (2019年11月23日 12時) (レス) id: 98acb8ec1f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Graecia devil sa-thin | 作成日時:2019年11月13日 20時