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第一音 ページ1

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


人工物のように青い空は,灰色のため息で曇り空になる。


「如何したんですか。とみえさん。折角の魅力的な顔が台無しですよ」


新本入荷のポップを作り乍ら,彼女に応答する。

興味のない話の為に作業を止めるなんて,効率的ではない。

そんな人は馬鹿だと思う。


「ねぇ聞いてよAちゃぁん!」


狭いロッカー室に悲嘆が響く。


「聞きますよ,云われなくても。合コンにイケメンがいない。それか出会いがない。確かこの前はお持ち帰りされそびれたんですよね。あとは重い女だって云われた。その前は……」


「もう良い全部正解」


「わーい」


視線が刺さる。


「だってもう28よ。芳紀は宝。Aちゃんもこうならないようにね」


いや28には見えないですよ,控えめに云って20ですよ。


とみえさん先刻のため息,再び。

そのうち雷でも堕ちるんじゃないか。


私は黄色のペンを手に取った。


「でもさぁ,イケメンなんて図書館で働かないもんねぇ」


「ですよね。まぁ,所詮は横浜郊外の小さな図書館ですし」


其れは本当に共感する。


「いるのは禿げた脂っこい中年だけ。女性職員はこんなにハイスペックが揃ってんのにさぁ。如何しよう,ストレスで肌が荒れちゃう」


確かにとみえさんは美人だ。

艶やかな髪に切れ長の目。

素が整っていると云う意味の美人じゃない。
美容の勉強をしていたらしい。努力と自信あっての美人なのだ。



「とみえさーん?」



とみえさんは何かを考えるように虚空を見つめている。


そして此方を振り向いた。


「先刻のハイスペック職員って,Aちゃんの事もだから。先輩敬愛は良いんだけど」


「は?」



沈黙が、痛い。



「そう云えばこの前イケメンいましたよ」



此れは本当の事である。

貸し出しカウンターを空けていた事を忘れ小走りしていたところ,その人にぶつかってしまった。


だって,視界に入らなかったんだもん。

端麗な顔立ちの茶髪で小柄な,碧眼の人だった。


「ばっ,馬鹿!そういうのは早く云うの!詳しく詳しく!」


「でもなんかやばそうでしたよ。何だったか忘れたんですけど,魚の名前を叫んでて」

「そんなのは関係ないの!顔!」

「えー如何しよっかなー。でも接吻はしづらそうですねー」

「えっ,如何云う事⁉」

「さぁ?」




その後何時の間に就業時間を迎えていて,禿げた中年にお叱りを頂いた。



如何してって,私が馬鹿だからかな。

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作者名:だみこ | 作成日時:2019年8月23日 13時

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