記憶の奥に咲く花【FAIRYTAIL】

２１， ページ22

　ルーシィ達が苦戦している頃。

　ナツはただ目の前の敵を倒すことだけに集中していた。少しでも相手が強そうならば、嬉々として戦闘に臨むような性格の持ち主であるナツにとっては、腕試しにもならない。

　別段仲間の心配をしているわけではない。

　それは決してナツの情が薄いだとかではなく、互いの実力をよく解っているからである。むしろナツは情が厚いほうだ。普通の人とは比べるべくもなく。仲間が傷つけられれば、傷つけた相手を簡単には許しはしない。

　信頼しているが故の行動。

　ナツは3体の魔物に囲まれたまま思考をフル回転させる。普段は頭の良さなど感じさせない、むしろ馬鹿な面が目立つことの方が多いが、こと戦闘においてはその限りではない。

　睨み合う中でナツは少し面白そうに笑い、

「燃えてきた！」

　と叫び、右手に炎を纏って目の前の一体、牛ゴリラへ殴りかかった。

　その一撃を意外な俊敏さで躱すと、牛ゴリラは着地したナツへ向かって突進を開始する。ナツは避けるそぶりを見せず、迎え撃つように両手に炎を集めた。

「ウオオォォォォォォオオオ！！」
「火竜の翼撃！」

　勢いに押され、地面にそのあとが残る。引き摺られるナツに空中からグリフォンを模した生き物が襲い掛かる。それを牛ゴリラを支えにして上に跳んで躱す。そこへタイミングよく跳んできた三又の人面の生物を土台にして、さらに上へと跳び上がる。

「右手の炎と左手の炎を合わせて……火竜の煌炎！」

　両手を合わせて巨大な炎の塊を作り出し、真下へ叩きつける。ちょうど三体が一塊になっていたその場所に。

　それは地面に当たると激しい爆発を引き起こした。当然、周りのモノを巻き込んで。

　砂煙が晴れると、そこには倒れた牛ゴリラ、飛んで回避したと思われるグリフォンモドキ、水の膜に覆われた三又人面。三又人面を囲んだ水は正面向かって右の頭の口から放出されていた。

　その現状を空中で認識したナツは小さく舌打ちして、落下の勢いを乗せて炎を全身に纏って突っ込んでいく。向かうのは三又人面の体の中心。

「これで……どうだぁ！火竜の劍角！」

　ナツの体は、いまだに残っていた水の膜を容易く破り、敵に直撃。爆音と共に水が弾ける。その水は降り注ぐ雨に交じって消えていく。三又人面は起き上がる気配を見せなかった。

　ナツはそれを確認することもなく、最後の一体に目を向けた。

　その時、屋敷の屋根を突き破った小さな影には誰も気づかなかった。

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