逃避行 06 ページ6
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子供は、大声で自分の欲を言う事が出来る。
あのオモチャが欲しい、あそこに行きたい、あれじゃなきゃ嫌だ、これじゃなきゃ嫌だ。
遊びたい、いやだこれは食べたくない、これは嫌いだからしない。
そんなふうに、小さい頃は大声で自分の意思を表示できたのに。
堂々と、自分の感情を大声に乗せることができたのに。
いつからだろう。いつから人間は、自分の感情を隠そうとするんだろう。
自分の意思を殺して。周りの人間から浮き出ないように。周りの人間から変に思われないように。
子供の頃は自分中心だった世界は、いつしか周りが中心の世界に姿を変えてしまう。
そして、あっという間に世界が姿を変えていくのに合わせて、
いつしか人は自分を守る術を身につける。
「黒木君も……そういう事、あるでしょう?」
声が、震えたかもしれない。私は今、どんな表情をしてるんだろう。
彼の指先は冷たくて、でも何故か今はその冷たさが切ない。
その冷たさを上書きするように、私の手のひらは彼の指先を捕まえて離さない。
「黒木君。」
ゆらゆらと、まるで波を投射したように揺れる黒木君の瞳。
今まで見た事ない瞳に、私は唇を噛み締めた。
辛くて。悲しくて。どうしようもなく、やりきれない。
でもそれを感じるのは、私だけじゃなくて。
きっと、彼も同じなんだ。
「黒木君、私は。」
どんなに大人っぽく見えていても。
どんなに達観していても。
目の前にいる、黒木 貴和は。私と同じ、16年間しか生きていない。
黒木君だって、傷つく。黒木君だって、もがく。黒木君だって、苦しむ。
私と同じように、彼もきっとそうなのだ。
でもそんな時。どうしようもなくやりきれなくて。傷ついて、悲しくて苦しくて。
どうにも出来ないとき。そっと、そっと。
「私は、黒木君の側にいるから。」
そっと、自分を包み込んでくれる存在。何もいわず、自分を受け入れてくれる存在。
何にも状況は変える事が出来ないけれど、その中でもそっと息をさせてくれるような存在。
何でもいい。何でもいいから。今まで、黒木君が私にとって色んな存在になってくれたみたいに。
今度は私が、黒木君がそっと息を吐けるように。
たっだ一瞬でも、安心できるような。
そんな存在で、ありたい。
そんな存在に、なりたい。
そう、強く、強く思う。
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Kobato*(プロフ) - 凛奈さん» 本当にこっちが感謝です(笑)更新したときには、是非読んでみてください* (2017年7月9日 16時) (レス) id: 1a71bdddc1 (このIDを非表示/違反報告)
Kobato*(プロフ) - 凛奈さん» いやいやいや…!凛奈さんのコメントにどれだけ書く気を貰っているか…!正直に言うと、新しい作品を作ったときや更新したときに凛奈さんがコメントしてくれないかなぁ〜って思うことよくあります(笑)毎回毎回素敵な感想も頂いて…! (2017年7月9日 16時) (レス) id: 1a71bdddc1 (このIDを非表示/違反報告)
Kobato*(プロフ) - ?0704さん» 今、またなんとなく書きたいものが浮かんでいるので更新したときは是非読んでみてくださいね! (2017年7月9日 16時) (レス) id: 1a71bdddc1 (このIDを非表示/違反報告)
Kobato*(プロフ) - ?0704さん» ありがとうございます!この話は私が書く話の中でもすごく深いものといいますか…とりあえず上手く表現したいことが伝わるか不安だったんですが、そういってもらえて本当に嬉しいです!黒木は本当に泣けますよね(´;ω;`) (2017年7月9日 16時) (レス) id: 1a71bdddc1 (このIDを非表示/違反報告)
Kobato*(プロフ) - まみさん» 更新履歴まで見ててくださったんですね…(涙)更新遅くてごめんなさいOrz、こちらこそまた時間がありましたら読んでやって下さいね* (2017年7月9日 16時) (レス) id: 1a71bdddc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Kobato* | 作成日時:2017年6月11日 19時