探偵達はカフェにいる【オリジナル】 (ページ10)

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アベラに気まぐれジュースをページ10

　彼女には不思議な能力がある。それを能力と言っていいかは分からないが、少なくとも彼女はそれを活かして探偵をしているのだから、当人にとっては能力なのだろう。

「今日は何にしますかアベラさん？」
「この気まぐれジュースにします、Aさん」

　彼女の名前はアベラ・セラヴィー。現役女子高校生で、私立探偵としても活躍している１６歳。こことは違うカフェでバイトをしながら、そこで事件の依頼も受けるそうだ。
　カフェの片隅で依頼を受ける女子高生、字面だけ見ればいつでも閑古鳥が鳴いていそうだが、流石そこは他国との戦争がないのと引き換えに自国で沢山事件が起こるグロースシュタット王国、依頼に困った事はないらしい。良いのかそれは。

　アベラさんの元に事件の依頼が来るのは、彼女の類まれなる頭脳のおかげでもあるが……もう一つ、決定的な理由がある。

　彼女は生まれつき「死者が見え、死者の声が聞こえる」体質なのだそうだ。死んだ者の声が頭に響いて、直接事情聴取とかも可能なのだとか。「なーんだ、それなら頭脳が無くても死者に聞けば良いんだから楽だよな！」とか思った画面の前の君、その考えは非常に甘い。

　考えてみてほしい、生きている人間に聴取をした時、必ずしも彼らが本当の事を言うとは限らないだろう。自分に不都合な事とか誰が喜んで教えるのか、それは死者も同じらしい。死者に至っては尊厳の問題も絡んでくるから、自分自身の名誉の為に嘘を吐く奴が多いんだそうだ。嘘か真か推理をするのは他でもない自分でしかない。
　さらに、当たり前だが死者の証言はヒントにはなっても証拠にはなり得ない。つまり自分で証拠を見つけなくてはいけない。何が楽なのだろうか。

　さらに元々彼女は耳が良すぎる、聴覚過敏なのだそうだ。大きな音にはめっぽう弱く、普段からイヤーマフをしている彼女が、頭の中とはいえ死者の声を大音量で聞くなんて辛い以外ないだろう。それでも彼女はこの能力を活かして、困っている依頼人を助けたいんだそうだ、立派だなあ。

　そんな彼女が頼んだのは気まぐれジュース。今日は……そうだ、オレンジとリンゴ、バナナのミックスジュースにしよう。オレンジにはストレス緩和の効果があるらしいし。

「お待たせしました、気まぐれジュースです」
「ありがとうございます！」

　その波乱万丈な人生に少しでも平和が来る事を願って。