探偵達はカフェにいる【オリジナル】 (ページ11)

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飲造にシャンパンをページ11

　私の常連の中で、探偵を本業としているのはアベラさんとあともう一人いる。しかも彼は、探偵事務所に勤めているというのだから、まるで推理小説から飛び出してきたようだと錯覚してしまう。

「やあAさん、来たよ。飲み物の用意はできているかい？」
「勿論出来ていますよ、飲造さん」

　彼は名前を沢山(たくさん)飲造(のむぞう)という。画面の前の君、言いたい事は分かる。でもこれが彼の本当の名前なんだ。児童書にありがちな安直ネーミングセンスとか言ってはいけないぞ。え、言っていない？まあそれは置いといて。

　飲造さんは３５歳の既婚者で『沢山探偵事務所』という名前の事務所に勤める探偵、つまりムジカさん達のように事件に首を突っ込んでは解決するタイプの探偵ではなく、依頼を受けて活動する"本物"だ──と彼自身が話していた。
　沢山探偵事務所は、実の祖母である飲世(のむよ)さんと二人で活動しているとの事だ。飲世さんは９０歳と高齢なので事件現場にはほぼ彼が出向いている。彼の推理力の高さは傍から見てもすぐに分かる程だが、飲造さんは「お婆様には敵わないよ」といつも言っている。どれだけ凄いお婆様なんだろうか。

　ちなみにこの飲造さん、名前から分かる通り日本人なのだが──なんと日本語が全く喋れないそうだ。長い事パリに住んでいて、日本に行くのは母方の実家に帰る時だけだったそうだから、日本語に触れる機会があまりなかったらしい。

　え？お洒落な街パリに住む人がなんでこの店に来るのかって？それは、私のカフェではシャンパンを提供しているからだ。……まあ、なんでカフェにシャンパンがあるのかは突っ込まないで欲しい。
　このシャンパンは「シャトー沢山」という所で作られたシャンパンで「シャトー沢山」は名前から分かる通り飲造さんの実家なのだ。小さい頃からシャンパンについてアレコレと沢山学び、いざ成人になって飲んでみたらすっかりハマってしまったとの事。

　なんとなしに仕入れたシャンパンが、このシャトー沢山の物だったので──それ以来彼は常連になった。この店に来店した時は、いつもシャンパンを何杯も飲んでいる。浴びるように飲んでいるというのに、優雅で上品でいられるのはパリに住んでいるからなのだろうか。

「お待たせしました、グラスのシャンパンです」
「ありがとう──うん、さすがシャトー沢山のシャンパンだ他とは違う……それともAさんの入れ方のおかげかな？」

　こんなセリフをサラッと言えるのも、パリ住まいだからか？なーんて。