探偵達はカフェにいる【オリジナル】 (ページ4)

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リコリスにブラックコーヒーをページ4

「思えばなんでこんな所に店なんて構えてしまったんだろう……」

　この店は少し路地裏にある。「見つからなくて少し探しちゃいました……ちょっと分かりにくかったですよ」と、前に来たお客様に言われてしまった。やっぱりここ、見つけにくいのかな……でもなあ、ここって土地代安いんだよなあ。

　いくらサラリーマン時代からコツコツ貯めたお金があったとはいえ、お店を持つのにはバカみたいな……こういう言い方は良くないな。とにかく大金が必要だ。仕込みとか改装とか、その他もろもろの事を考えれば、安く済ませたいのが人間ってもんだ。

　でも、こんな面倒な場所にある店を難なく探し当てられるのが「探偵」の凄いところだと思う。ほら、今まさに店にやって来た彼女もその探偵の１人だ。

「こんにちは、Aさん」
「いらっしゃいませ、リコリスさん」

　リコリス・ラジアータ。現役女子高生で、まだ１７歳と若い年齢だが「サディーク」という新聞会社に勤めている新聞記者でもあるらしい。学生の内は仕事をせずに、勉強とか部活とか友人と遊ぶとか、そういう若い内にしか味わえない青春を味わってほしいもんだがなあ。

　一度、リコリスさんは友人がおらずに一人ぼっちで学生生活を過ごしているんじゃないかと思ったが、たまに掛かってくる電話の会話内容を聞く限り、友人には恵まれているようだ。じゃあ、彼女は望んで新聞記者になったというのか？物好きな人だ。新聞記者だなんて面倒くさそうな仕事に就きたがるとは……よっぽどの事情があるんだろう。

「ご注文は？」
「ブラックコーヒーをお願いします」
「かしこまりました」

　私の店では、選び抜いたコーヒー豆を丁寧に挽いて淹れる、自慢のコーヒーだ。少し苦くなってしまうが、ブラックコーヒー好きには溜まらない逸品らしい。少し高い豆を買って、コーヒーの美味しい淹れ方を学んだかいがあった……

「お待たせしました、コーヒーです」
「ありがとうございます。……あの、Aさん」
「はい、なんでしょう？」
「今日は何時間までここに居れますか？」
「あはは、あまり繁盛していないお店なんでね……閉店時間まで居れますよ」
「分かりました、ありがとうございます」

　丁寧に礼を言って、リコリスさんはタブレットを開いて、キーボードを慣れた手つきで打ち始めた。どうやら仕事を始めるようだ。……そういえば彼女が仕事をする時はいつもブラックコーヒーを頼んでいる。お気に召してくれたんだろう、カフェのマスターとしてこれ程嬉しい事はなかった。