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第参拾陸章・「我慢」 ページ36

*


「・・・ぁ・・・千鶴・・・ぃたい・・・あいたいよぉ・・・」


呟いていた自分の声に驚いて、薄れていた意識が戻ってきた。

自分でも驚く程に小さく、掠れていて、喉から絞り出したような声は

妙に、自分ひとりしかいない薄暗がりの部屋に響いた。


「あ、あれ? あー、あー・・・声、出るようになってるし」


喉に手を当て、「こんにちは」などと言葉を発してみる。

先程までどれだけ頑張っても声が出なかったというのに、

何故出るようになってしまったのだろうか。


「言葉が発せても、千鶴はもういないんだから意味ないのに」


ぽつりと呟く。

その言葉が、・・・僕自身が、とても寂しいものに見えてそっと目を伏せる。


「あ・・・そういえば、このブラウスとシーツ、洗わなきゃな・・・」


伏せた目線の先に見えたブラウスとシーツにべったりとつく赤色の液体は、

乾燥して茶色になってしまっていたが洗うほかに成すすべがないと思い、

そう呟く。

どうにも一人だと独り言が多くなってしまう。


「面倒くさいなぁ」


なんて呟き、ブラウスを脱いでシーツをベッドから剥ぎ取り、

いつものお気に入りの服に着替えてブラウスとシーツは洗面所に持っていく。

そこにある石鹸と洗剤でブラウスとシーツについている茶色に変色した液体を

なんとか見えなくなるまでに洗い落とすと庭に持っていき、ずっしりとした木の枝に

ブラウスとシーツをかけて、風に飛ばされないよう赤色のリボンを枝とブラウス、シーツに

巻きつけると、人に見つからないように急いで自室へと戻った。



「ゲホッ・・・ゴホ・・・っ・・・はぁ」


最近は少し走ったくらいでも咳が出る。

今日はあまり苦しくながったが、

前は朝から昼頃までずっと咳が止まらなかったりした時もある。

でも、こんなの千鶴が感じてきた苦しみに比べたらどうってことない。


我慢、しなければ。


「それにしても・・・千鶴、言い逃げなんてずるいしぃ・・・」


寝転がった部屋の床から見える千鶴の写真を見て呟いた。


本当にあの時は驚いた。

まさか千鶴が僕のことを想っていたなんて思いもしなかったから。


「あの時・・・僕が君に"僕も好きだよ"って言えば、君は・・・

 君は、また優しく笑ってくれたのかな?」


あの時、君に伝えることができていたならば。

第参拾漆章・「キス」→←第参拾伍章・「プレゼントさえも」



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あぉぞら - すいません!紅覇くんの消してしまいました…。短編集書いてるので、良ければそちらを…!すいません!玲琉.さんの作品、大好きなんでこれからも読ませて頂きます! (2015年6月22日 1時) (携帯から) (レス) id: 0a5444ed6a (このIDを非表示/違反報告)
玲琉.(プロフ) - あぉぞらさん» コメントありがとうございます!そう言ってもらえてすごく嬉しいし励みになります・・・! あぉぞらさんの小説は時間があれば是非読ませて頂きます・・・! (2015年6月9日 18時) (レス) id: 7d3c1dd707 (このIDを非表示/違反報告)
あぉぞら - 私、小説の一気読みはしないんですが、この小説は面白すぎて一気読みしました!私も紅覇くんの小説かいてるので、良かったら見て下さい! (2015年6月9日 1時) (携帯から) (レス) id: 0a5444ed6a (このIDを非表示/違反報告)
もちづき。(プロフ) - 玲琉.さん» ひえええぇありがとう・・・!!発想力というか妄想りょ((ゲフンゲフン。うん!ちょっと息抜きとかに読ませてもらうね! (2014年12月29日 14時) (レス) id: 8ea19f9ae6 (このIDを非表示/違反報告)
玲琉.(プロフ) - もちづき。さん» 来てくれて有難うー!!!!つきちゃんは文才あると思うよ^^っていうか恋愛のシチュエーションとかの発想力がすごいと思う!この小説はマギ知らなくてもわかる内容だと思うよ・・・!多分・・・!良ければ全部読んでやってね()綺麗な文章とか何それ嬉しすぎ>< (2014年12月29日 14時) (レス) id: 754b0bfd10 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:玲琉. | 作成日時:2014年4月4日 18時

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