泡沫少女の泡沫ノ恋。―第弐章―【練紅覇】

第陸拾玖夜・「いかないで」 ページ28

「だから･･･おねがい･･･Aは･･･っ･･･


　戻ってくれ･････!!」



真剣な二つのルビーを埋め込んだかのような、真紅の瞳。

その瞳は決して嘘をついているようには見えなかった。


――だけど


「私は･･･! 私は戦わなきゃいけない!! 煌帝国のためにも･･･私のためにも。

　勝って、紅炎さんに認めてもらわないといけないんだ。

　だから･･･! だから私は、行くよ? 止めないで･･･。

　人を殺すことくらい･･･私にだって･･･!!」


「そう言うと思った･･･だけど、A･･･煌帝国が勝つためには･･･

　彼奴を殺さなくちゃいけないんだ･･･そんなの、いや･･･だろ?」


ジュダルは苦しげに肩で息をしながら懸命に私を説得させようとしている。


何故、そんなにも止める必要があるのか。

"彼奴"って、誰?



「もしかすると･･･Aだって、殺されちまうかもしれないんだぜ･･･!?」

「それは、怖くないよ。････だって私、どうせ死ぬ運命なんだもん･･･

　煌帝国のために戦って、死ねるなんて最高じゃない?」


無理矢理な笑顔をつくる私の肩を掴む手が、徐々に強くなってきている気がする。

ジュダルは震えながら、掠れた小さな声で懸命に声を出す。


「俺は･･･やだ･･･! Aが死ぬのも･･･人殺しをするのも･･･嫌なんだよ･･･!

　頼む･･･お願いだから･･･お願いだから戻って･･･!!! あっちにいかないで･･･!

　時間がないんだ。俺がAを傷つけてしまう前に帰ってくれよ････!!!」


"時間がない"?

頭には疑問しか浮かばない。

ジュダルはこれだけ言うが、私には戻るつもりは微塵もないんだ。



「う･･･っ･･･ああっ･･･ぐっ･･･ぅ･･･はっ･･･ふ、うっ･･･あああっ!!!」



気がつくと、ジュダルの手はもう肩から離れていた。

気がつくと、ジュダルは地面にうずくまり、必死に痛みを耐えていた。


「ジュ･･･ダ、ル････?」


ジュダルの傍には、戦っていたはずの紅炎さんの姿が。


「･･････効いていないのか･･････流石マギ･･･とでも言っておこうか。」


紅炎さんはポツリとそう呟くと、ジュダルの口へエメラルド色の液体を無理矢理流し込む。

そして私に視線を向けた。


「敵軍の前列は倒した。次は後列と戦う････A、行こうか」

「･･････はい」


ごめんなさい、ジュダル。

私は戦わないといけないんだ――

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