シンデレラ・ディレクション《ars/k.n/0617》 (ページ10)

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Episode1 -4 ページ10

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というのも、私が入社して割とすぐのころに智兄さんと会社の近くで待ち合わせをしてランチをしたことがあったのだけど、その時にたまたまお昼を食べに出る櫻井さんと一緒になって通り道だからと智兄さんとの待ち合わせをしていた公園まで送ってくれたのだ。

私が櫻井さんと共に待ち合わせ場所に付いた時にはすでに智兄さんが着いていて、丁寧にあいさつをしてさわやかな笑顔を残して去っていった櫻井さんのことがいたくお気に入りのようだ。

この世で一番好きな顔だったとその日のランチ中智兄さんはなかなか上機嫌だった。

確かに櫻井さんは綺麗な顔立ちをしているし紳士的で優しくて仕事ができる。

その辺は智兄さんと同じ見解なのだけど…。

「櫻井さん、たぶん恋人いると思うよ」

「……はあ。別れねぇかなぁ」

「縁起でもないことを」

笑いながら私は缶チューハイのプルタブを開けた。

明日が二人ともお休みならどこかへ出かけることよりも一緒に飲むことの方が優先である。

「智兄さん、乾杯」

「お、乾杯」

コツンと缶同士をぶつける。

智兄さんがすでに広げていたさきいかに手を伸ばしながら私は今日会社であった出来事なんかを話し始めて話題を櫻井さんから逸らした。

うっかり二宮さんのことをしゃべらないようにするためと、櫻井さんについてしゃべりすぎないようにするために。

「A、櫻井さんに恋人いるのか聞いとけよ」

しばらく後、酔ったちょっとろれつの回ってない声で智兄さんはそう言った。

私は「はいはい」と適当に返事をしながら空になった智兄さんのグラスにワインを注いだりとかしたんだけど智兄さんは果たして明日起きたときにこの発言を覚えているだろうか。

まぁ、恋人がいるのかどうか櫻井さんに聞くくらいは別にいいんだけど。

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