島の風は激しい ページ7
風の強い日。
当直の日の夜に緊急で駆け込んできた人がいた。
土木系の軽トラの荷台に横たわる男性。
頭から出血していて、タオルが巻かれている。
タオルをそっと外すとパックリと綺麗に割れてしまった皮膚が見えた。
連れてきたであろう同僚の男性は汗をびっしょりかきながら事態の説明を始める。
「何があったんですか?」
「足場用のパイプが倒れて来て...」
「ストレッチャー持ってきて」
一緒に玄関まで来ていた看護師や医師に指示し、すぐにオペ室に運ぶ準備をした。
___
「田島さん縫うよ?」
当直室まで聞こえてきた独特なAの患者への声かけで目が覚めた。
シワになったスクラブを叩いて当直室を出ると、外ではそんなに急いでいないストレッチャーの音が響いていた。
救急患者か...
急いで角を曲がったであろうストレッチャーを追いかけた。
__
「どうしてこうなったって?」
「強風で煽られたパイプが直撃したそうです。
ショックで意識障害が見られますが、先ほどまでは会話が可能でした。今は麻酔が効いてます。」
「創部は?」
「6センチほど。傷が若干深いので一応麻酔と。嘔吐等脳震盪の気は見られませんでした。」
「了解。」
「っていうかよく起きましたね。」
「お前の声で起きたんだよ。
次からは起こせよ、」
「あい。」
ガチャガチャと針と糸、消毒液と生理食塩水が準備される手術室で、会話をする余裕のあるA。
創部を見てそんなに大掛かりにはならないと分かっているからだろう。
「じゃあお願いします。」
クイッと短く会釈したA。
その合図とも言えない合図で始まるオペ。
Aは持っていた生理食塩水を創部にかけて消毒と洗浄を開始した。
脳神経に異常は見られず。
「…何分?」
「多く見積もって十分。」
彼女は総合診療医の研修で救急にいた頃、ひどい火傷を負って意識障害を起こした女性のオペを見たのを思い出した。
膿が止まらなくて、出血もひどく、バイタル低下も酷かった。
今回はそんなことなく、宣言通りに十分以内で消毒や止血は終わり、創部を縫合するまでに時間はかからなかった。
Aが何も言わず差し出した小さな掌の上に置かれた持針器。
受け取ったAは持ちにくそうにしながらも慣れた手つきで創部を縫合し始める。
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作者名:長官 | 作成日時:2020年5月3日 17時