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骨の髄まで ページ8

「お疲れ様です。」

そう言って少し良いアイスを労いの意味を込めてか皆に渡し始めたA。


「んー、終わった終わった。」

「鬼嶋先生、寝てきた方がいいんじゃないですか?」

「ん?私は平気ですよ。それより院長寝かさなきゃ。あの人も忙しいですからね。」


クルクルと椅子を回して白衣を揺らす小柄な女が呑気にそんなことを言っているのを聞いたのか荻島はシワのついたスクラブをまた叩きながら医局に現れた。

「誰が寝かされなきゃって?」

「あれ、もういいんですか?全然寝ちゃってればいいのに〜」

「いや、変われ、」


彼女は昔から当直中にあまり眠らない人だった。

救命が専門だったが故にか、当直室に入ったところで眠気が来ないのだそう。

“常に患者に呼ばれてるような気がして眠れない”
といつしか言っていた。


「ショートスリーパーなんですよ。私、」

「...まぁ無理するなよ。」

「はぁい。」

_____________________

翌朝。

当直明けに帰れることを喜ぶはずが、Aは荻島が帰ろうとしている時間にも病院に残っていた。

「あれ?鬼嶋先生帰らないんですか?」

「総合医の精鋭が二人もいなくなっちゃダメですよ〜」

冗談めかしく椅子でクルクル回りながら言う彼女の言葉に困惑を隠せない看護師の山中さん。


「もう数日帰ってませんよね...?」

「あ。ちゃんと風呂は入ってますよ。」

「あ、いやそうじゃなくて...」


「だって私帰るとこないもん〜」


空気が固まったのを察してAは“え”と口にした。

山中はAの“帰る場所がない”と言う言葉にたくさんの疑問符を並べている。


「どういうことですか?」

「実家がないんですよ」

「実家?」

「私孤児院育ちなんでこの島に実家ないんです。
それにアパート借りてるけど下の階で火事があってまだ帰れないんです。
まぁいいかなぁって友達の家にたまに帰ってたりしてます」


Aの赤裸々な話に黙り込んだ山中さん。

Aは自身の話のどこに黙り込む要因があったのかわかっていないようで、目をパチクリとさせて一点を見つめた。


「え、私何か変なこと言いましたか?」

「あ、あいや。何も。」

「あ、ちなみに院長には“シー”ですよ?
バレると面倒なんで。」


そう言って口に人差し指を当てる茶目っ気だか馬鹿だかわからない仕草をするA。

山中は息を詰まらせながら同じように口に人差し指を当ててゆっくり頷いた。

孤児院の思い出は無い→←島の風は激しい



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作者名:長官 | 作成日時:2020年5月3日 17時

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