349 ワンハーツミー Side Y ページ9
「彼の言った、オリオン財団のやり方に背こうという意思。それは確かだ」
イナズマジャパン、選手としての新しい本拠地となる宿舎。
Aは傾けていたマグカップを静かに置きながら、そう呟く。
荷物の入る前の、Aの部屋。
荷解きなんてどうせすぐ終わるから、とAが言ったのと相違なく、海外に来たとは思えないくらい小さな段ボール箱達が部屋の片隅で息を潜めている。
僕と、西蔭と、一星君。
到着後に早々集まった僕達は、拭い切れずにいる不安をどうにか置き去りにしようと、Aの言葉に縋るように聞き入っていた。
良かった、と胸を撫で下ろした一星君を見つめながらも、自身で躊躇う隙すらも潰すようにと、すぐにも詰められたのが、その続き。
「でも残念ながら、不安な点もいくつか見られたんだ」
「……また、嫌なものを見たのか。あんたの目は」
表情にはあまり表れなくても、Aを案じているんだろう。
西蔭は空になったAのマグカップにコーヒーを注いだ後、それは多すぎじゃないか、ってくらいの角砂糖を躊躇なくコーヒーの中に入れた。
Aは満足そうに、丁度そのくらいの甘さでいい、というように、マグカップにそっと口をつける。
「ありがとうございます、西蔭さん。でも醜い悪意だとか、そんなものではないんですよ」
「それなら、どうして」
「他人を疑わない性格のせいかな。チームメイト達を必要以上に信用しているんです、あのひと」
焦らす話し方は、口の上手いAの癖であり、真実の残酷さを鮮烈に他者へも同様に与えるAなりのテクニック。
「なるほどね。周りを信じ切っているからこそ、良くも悪くもチームメイトに気を配っていない……とか？君が言いたいのは、そういうことかな」
僕は、君のことを分かってるよ。
そう知ってほしくて、意地悪でもするみたいに割り込んでみる。
現に、オリオン財団に背くと宣誓したのは、彼ひとりだけだった。
それなら、他のチームメイト達はどう？
僕も、気になっていた点でもある。
「フロイ・ギリカナンからは見られなかったはずの動揺が、他のチームメイトの表情からは見られた。もちろん、彼自身はそれに気付けていない」
肯定するには気に食わない、といった様子。
それでも否定せずに続けたんだから、間違ってはいなかったんだろう。
Aは立てた人差し指で、僕達の視線を廻る。
「これは正直、真っ向からの敵対よりもずっと厄介な状況だよ。……どうする？」
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2022年3月31日 19時
