348 ワンミーツハー ページ8
人混みは得意ではない、でも必要以上に身構えられないためにも、今は人目のあるところの方がいいだろうと思った。
そのせいで、沢山の目から放たれる視線が、私と光くんに刺さっている。
……背に腹は、代えられない。そんな憂鬱の中。
彼の持つブルーの混じった銀髪。太陽の光を受ければ、きらきらと輝く。
フロイ・ギリカナンは光くんと話す中、ずっと楽しそうにころころと笑っているものだから、その笑みに合わせて不規則に揺れるのを見る度に、天の川の幾筋を束ねてしまったみたいだ、なんて思ってしまって。
＿＿その髪は少しだけ、兄と似ている。
ほんの悪戯をされたみたいに、気が逸れたのだ。
「？ どうしたの、可愛い天使……僕のことが気になる？」
その気を逸らした隙を、狙っていたとは思わない。
隙というより、視線に気付いたらしい。
にこりとあどけない表情で、私に話しかけてきた。
天使、という呼び名を随分気に入っているらしい。
私を“麗乙女”と名付けた悠馬とも、気が合うんじゃないだろうか。
(明確な悪意は＿＿現状、見えないか)
目には、自信がある。
様々な悪意を、視覚を通じて味わってきた。
でも、ここまで悪意の見えない人間というのも珍しい。
いつも見えるはずのものが見えなくなる。
そして、いつも見えないものが見えてしまう。
「……ああ、気になっているよ。光くんから大切な友人だと聞いていたし、それに…」
それでも、その未知の感覚に自身が鈍らされてしまわないようにと、姿勢は崩さないまま。
「先程の宣誓についても、気になっている。ロシアはオリオン財団の本拠地であるはずだから、意外だったなと思ってね」
責める物言いはせず、できる限り穏やかな空気を壊さないように心掛けたつもりだけれど、隣にいた光くんの表情には少し緊張の色が覗いていた。
「そう、さっき言った通りだよ。ロシア代表に、オリオンの使徒はいない……それに、僕達はオリオン財団のやり方を認めない」
「それは、自分の家のやり方に背くということ？」
「僕のギリカナンという姓は、飾りみたいなものさ。オリオン財団の意志に、僕は少しも入り込めない。財団といったって、結局は全て
光くんに釣られたその空気を、再びにこやかなものへと引き戻すように。
そして、自身を鼓舞するように。
「……だから僕はね、ギリカナン一族の一員としてでなく、フロイ・ギリカナンという選手として、抗うことにしたんだ！それだけだよ」
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2022年3月31日 19時
