episode247 Side Y ページ5
「まだあの子を信じてみたいと思ったから、だよ」
どこまでも、真っ直ぐな目だ。
そのまま射抜かれてしまいそう。
しばらくその目に見蕩れていると、Aはくくっ、と口元だけで笑いながら、僕の手首を掴む。
「……今の私、どうかしてると思うかい。悠馬」
……そんな風に言われて、頷ける訳ないのに。
唇をぎゅっと噛み締めて、その目から逃げるように今度はAの手に視線を落とした。
そっと手を握る。熱くて、小さな手。
＿＿“君に由羽真くんと同じ末路を辿ってほしくない。君は君でしかないんだよ＿＿
あの時と一緒。
悲しみに潰えそうになった、優しさの潜熱。
「……ううん。そんなことない…」
「……はは。君はどこまでも、私に甘いんだね」
するり、と撫でるような、もったいぶるような手つきで、ゆっくりと僕達の手は離れていく。
もう一度握り返したかった。少なくとも、このまま離したくはなかったんだと思う。
でもAは静かに僕から背を向けて行ってしまって、テーブルランプからいちばん近くの席に座った。
そして目線だけで、僕を向かい側の席へと誘い出す。
素直にそれに従って、ぼんやりとした灯りを挟んで僕達が向き合えば、Aは頬に睫毛の陰を落としながら、話を続けた。
「まず第一に、私達は一星充くんを止めることは出来ないよ。あれらの行動は全て、弟である一星光くんの為にやっていること。うちの兄と同じだと思えば、君にも想像が出来るんじゃないかな」
心臓が打つのと同じリズムで、痛みが全身に伝播する。
由羽真さんと、一緒。
僕がいちばん近くで見ていた、あの人と。
妹であるAの為に自分を犠牲にした、僕が誰よりも尊敬している選手と。
「だからあの子は、なりふり構わずに進み続けなくちゃいけない。それがあの子にとっての前か後ろかは、分からないけれど。だから」
うるさく響く鼓動に混ぜるように、とんとん、とAの人差し指がテーブルを叩く。
「まずはどんな形であれ、振り向かせなきゃいけないと思って。たとえそれが、同情を引くという形でも」
大人のように揺るぎない覚悟の中に、出会ったばかりの頃の寂しそうなAの姿が覗いた気がした。
それはあまりにも無謀な賭けだ。
だってもし、一星君が君から聞いた話を、全て組織に打ち明けてしまったとしたら。
今まで明かされてこなかったAの過去と、アテナの羅針盤の全貌、そして由羽真さんの存在が、組織に露呈してしまう。
248 ベット・ザ・リミット→←246 オーバードーズ・ホープ＿＿Shortly before
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三峰 契(プロフ) - 琥珀恋歌さん» お返事お待たせしてしまい申し訳ありません…！現在本編に集中する為、スピンオフの方は更新をお休みさせて頂いております。更新再開時にまたパスワードを公開する予定です！ (2021年4月2日 23時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
琥珀恋歌(プロフ) - スピンオフのパスワード教えてください！ (2021年3月18日 13時) (レス) id: a29e155f14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年2月27日 18時
