episode238 Side M ページ45
「うちの親、駆け落ちでさ」
ふぅ、と沈むような溜息に、緩く解けた柔らかな髪。
頬にかかったその髪を耳にかけながら、ぼんやりとした目でAは蛍光灯を仰いだ。
気はあまり進まないのか、長く閉ざされていたアルバムのページを重々しく捲ってみせるように。
「……何、急に。どこに繋がるの、それ」
「焦らずに、聞いてよ。……母は、月光エレクトロニクスを牛耳る御堂院の血筋。つまり母も私も、悪の親玉の一族ってこと」
御堂院といえば、アレスの天秤の創始者である御堂院 宗忠が真っ先に浮かんだ。
母親も、自分も。そう言って眉を顰めながらも、口元はいつも通り歪んでいる。Aらしい笑い方の癖。
紅茶の入ったティーカップ。
わざと叩き割った俺の前で、わざわざまたもう1人分淹れ直して、テーブルには元通り2つのティーカップが優しい香りを揺らす。
その水面にも、陶器にも、Aの目の色がくっきりと輝いて映り込んでいた。
彼女の目は、どうしてこんな時まで綺麗な色で光るのだろう。
こんなんじゃ、星に手が届くなんて、幼稚な幻想まで抱いてしまいそう。
「本当に、何の能もないひとだよ。とびっきり顔が良くて、家が金持ちで。他に何も持たずに、生まれ持った運だけであの歳まで生きてきたひと」
「何だよ、その言い草……自分の母親だろ」
「はは、仕方ないじゃない。事実なんだから」
洒落にならない話も、Aは平気そうに話す。
それは冷静に、冷酷に。
そして平然と、平坦と。
でも、あくまでも“平気そう”であって、“平気”ではないんだろう。
会話の隙にそっと紅茶を口にしては、物足りなさそうに目を伏せて、Aはシュガーポットから角砂糖を摘まんでいた。
穏やかな水面に、とぽとぽと甘い波紋が広がっていく。
「無意識か故意かは知らないけれど、母が
「……ロシアで？」
「そう。偶然ね」
偶然、でしかないんだろうけど。
その偶然という言葉の重みを、今は飲み下すしかなかった。
「まぁ、あんなひとに現を抜かしたくらいだし、所詮はただの男だね。あれだけ大事にしていた子達を放って、生まれ育った国も飛び出して。これ以上ないくらい薄情。取り残された子供の気持ちにも、なってほしいものだ」
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
