episode239 ページ46
「とは言え、サッカーを教えてくれる時の父は好きだったよ。やっぱり私も兄も、父に影響されている部分は大きいと思う。でも母は、私に関心が無かったみたい」
昔は不思議で仕方なかったけれど、今更になって分かってきた気がする。
恐らく自分の生き写しみたいで、気味が悪かったんじゃないの。
父は、まだ出会っていない頃の彼女を見ているようだ、って嫌になるくらい褒めてくれたけれど。
＿＿“いつも父さんが言ってるだろ、Aちゃんは母さんによく似て美人だって。Aちゃんが怪我なんてしたら、父さんショックのあまりに気絶するって”。
とうに昔のことで、今更どうにもならない話。
故に、昔話。
語り口はいくらでも変えられる。
けれど、起こった物事そのものはどうやったって変わらない。変えられないのだ。
「こうして綺麗な顔で産んでくれたことは、今となっては感謝しているけれどね。これでも、一時は苦労したものだよ」
感謝なんて、自分で言っていて、馬鹿らしいな。
果たして、上手く笑えていたんだろうか。
そう不安になってしまったものの、一星充くんの表情が苦々しく歪むのを見て、ああ、これなら大丈夫そう＿＿とわざわざ相手の神経を逆撫でしていくように、ひっそりと安心を覚えていた。
「ほんっと、いちいちうざったいな……！分かったよ、じゃあその腹立つくらいの魔性っぷりは、母親譲りってことか」
「照れるな、魔性なんて。でも、あのひとはそこまで計算高くないよ」
目を酷使していた頃からの、糖分を摂る癖もしばらくは抜け切らなさそうだ。
シュガーポットの中の角砂糖をティーカップの中でなく、直接口の中へ放る。
それはじんわりと熱っぽい口腔で、べたつく甘さを残しながら、自らの形を忘れ去るように溶けていった。
「う……それ、見てるだけで頭痛くなりそう」
「ごめんね、つい癖で」
甘味は味覚のうちでも強く感じやすい。
そして、すぐエネルギーになってくれる。
そんな理屈を抜きにしても、いつの間にか好きになっているのかもしれない。
溶け切った砂糖を名残惜しく思いながら、また空っぽになった口を開く。
「さて、兄の話に戻ろうか。兄はアレスの天秤に選ばれて、英才子供センターへ行くことになった。そしてそこで亡くなったって訳。でも」
どこに話が繋がるのか、と興味が無さそうだった彼を、惹き付けるように。
そして、それを語る覚悟をゆっくりと私の中で固めていくように。
「これが全部、母の手引きだったんだよ」
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
