episode229 Side Y ページ36
充電コードに挿していたスマートフォンが、リン、と軽やかな音を奏でた。
Aと西蔭からの連絡はすぐに返信ができるように、通知音を別にしている。
今自室に西蔭と2人でいる以上、この連絡はAからのメッセージってことになるけど。
初期設定から変わっていない、グレー1色のアイコンをタップしてチャットを開く。
そこにはいつもと変わらない、用件だけの可愛げない文で。
＿＿“一星くんと話をするから、しばらく私の部屋には来ないでね。よろしく”。
「西蔭」
「はい。何でしょう、野坂さん」
「一星君の部屋に行こうか」
一星君、と口にした途端、西蔭の顔は僅かに強ばった。
「……Aが一星君を連れ出してるうちに、早く。試合の直前だからこそ、未然に防げる事件があるかもしれないでしょ」
一方的に会話の主導権を拐って、戸惑う西蔭に“ついてきて”、とアイコンタクトを送る。
僕が部屋を出て動き出したら、西蔭も何もしない訳にはいかないのだろう。いつもより焦りの見える歩調で、僕の隣を歩き出した。
「Aが一星を連れ出している、というのは」
「うん。2人で話がしたいらしくて、機会ができたら自分の部屋に呼ぶってこの前言ってたから」
いくらAが一星君の弱みを握っているとしても、僕達が同席したり、他の人目が気になる場所だったら、本当のことを話してくれないだろう。
だからこそ、ここはAに。
そして一星君に、譲らないといけない場。
「…そんな、危険な……！野坂さん、お言葉ですがそれは」
そう言った途端、僕が進む方向を素早く切り返して、Aの部屋の方へと向いた爪先。
僕なんかじゃ、力では西蔭には到底叶わない。
腕を引いて止められないなら、と、もう一歩を踏み出すよりも前に先制して声を上げる。
「でも、もし君が簡単に返り討ちに遭ってしまうようなら、即座にその役目は僕が代わる。君と違って、僕はどんな非情な手も使うつもりだ」
思いの外、もう一度此方を振り返ったその表情に、動揺が見えてしまって。
(……僕も、Aに随分甘くなっちゃったなぁ)
「……って。Aと、約束してるんだ」
誤魔化すように、笑って済ませてしまう。
西蔭はこんなにも真面目なのにね。
＿＿自分を守ることが、一星君を守ることにも繋がる。
そんな風に条件をつけてしまえば、Aが迂闊にリスクを背負うような真似はしないはずだから。
「僕とAのこと、信じてよ。だから今は、僕達が出来ることをしない？」
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
