206 クライベイビー・レイニー ページ13
病室を出て、すぐのこと。
まるで
降り出すのは午後からだと聞いていたのに、どうやらあの時見上げた入道雲は、その時間まで泣き出すのを待ちきれなかったみたい。
何にも構わずに泣き出せるなら、きっと一星充くんだって、きっと一星光くんだって、そして間違いなく私だって、そうしている。
空模様はいつでも自由で、羨ましいものだ。
それならいっそ、私達の分まで散々に泣き腫らして、枯らし果ててくれないかな。
「花綺更選手」
急に冷え込み始めた空気と、雨音が窓にぶつかる静かな振動に背中を撫でられて、小さく体を震わせた数秒後。
相変わらず柔らかな声に、また助けられた心地。
「結構、長時間話し込んでしまったみたいですね。迷惑、お掛けしてないでしょうか」
「ううん。光くんも、今日は花綺更選手の為に時間を空けてくれていたみたいだから」
控えめな笑顔はほんのりと嬉しそうにも見えた反面、何かを言おうとしてそっと思い留まった愛想笑いのようにも感じてしまう。
「一星くんは、……一星光くんは」
わざわざ聞かなければいいのに。
わざわざ聞かなくても、分かっているのに。
「どうして、あの子って」
ばちん、と痛いほど真っ直ぐな視線がぶつかった、その途端に。
「……すみません。何でも、ないです」
肌寒さだけでは言い訳のつかない、か細い吐息が漏れ出していた喉が、いくじなしの糸で
迷子の子供のようにカーディガンの裾を握りしめて塞ぎ込む私を、痛いところだけには触れないまま、ゆっくりと視線を合わせて。
「帰りも、裏口通って行く？」
嫌だな、酷く感傷的だ。
一星光くんと一緒にいて、色んなことを思い出してしまったせい？
それとも、傷付いていた頃の自分に意地悪をしてしまったような、罪悪感？
「いいえ、雨も本降りで人通りは減っているみたいなので、今のうちに表から出ます」
こんな時でさえも涙で濡れることもない双眸も、何だかじんわりと熱くなってきた。
いずれこれが正しいことになると信じたい。今はただただ、虚しく思えても。
「そう、……今日はありがとうね。良かったらまた、光くんと会ってあげてくれる？」
「はい、……ありがとうございます。でも」
正義感。そんなものでも、損なものでもない。
きっと、ただあの子を助けたいというエゴ。
「まずはお兄さん＿＿一星充くんとも、ちゃんとお話してきます」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 279人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
