さよなら、Iris【あんスタ】

118.急転 by A / 孤独 by S ページ23

･


なんで。

なんで、こうなってしまったのだろう。


堪えきれない涙が、溢れる。


こんなの、嫌――




｢……!?｣


突然、私の腕が強く引かれる。

そこには、Aがいた。


長い睫毛に縁取られた目は見開かれ、刺すような視線が私を射抜く。


｢あのさ。悲鳴上げてる暇あったら、まだやる事あんでしょ｣


その声はどこまでも冷淡で、平坦で。こんなに感情が無い声を、私は生まれて初めて聞いた気がした。


｢『プロデューサー』の自覚が、足りない｣


私の方がいくらか背が低いのもあるだろうけど……それは、取るに足らない、虫けらか何かを見下ろすかのようで。


｢うちらはまだ『Trickstar』のために、やれる事がある。わかってる？｣


………えっ？

や、『やれる事』!?


Aは、いつも私の予想を超えてくる子だけど……今、放たれた言葉は、これまでの全てすらひっくり返してしまうくらいに私を驚かせた。


｢……先に行くから｣


『やれる事』が何なのかを私が縋り付いて聞く前に、本人もそれを教えてくれないまま、Aはさっさと歩いていってしまう。




………けれど。

私は、泣いてないはずのAが、涙を浮かべていたような気がした。


昨日の朔間先輩と同じように、どこまでも透き通った、誰かを思う、優しい涙を。




〜〜〜〜




しばらくして。

俺は防音練習室に、たった1人でうずくまっていた。



ずっと待ってるのに。

だれも、こない。



そりゃそうだよな。
現実的に考えれば、ホッケ〜たちの判断は正しい。
そのほうが『アイドルとしての自分』にとって、プラスになる。

そうするべきなんだ。きっと、俺も。
皆そうやって、大人になるんだ。




でもさ。
ホッケ〜、ウッキ〜、サリ〜……。俺たち、まだ子供じゃんか。夢を見てもいいじゃん。そう思ってるのは、やっぱり俺だけだったのかな。


膝を抱えた腕に、爪を立てる。
痛い。涙が出るほどに。
でもそれより、心の方が、酷く痛いや。


……また、元通りだな。
動いたと思った時計の針が強引に戻されちゃった。むかし……ホッケ〜たちに出会う前に、逆戻りだ。


俺の周りには、だぁれもいない。
誰も、だぁれも。




――ああ。


俺はまた、独りぼっちになっちゃったよ。





もう心も何も、思考すらも、ろうそくの火みたいにふっと消えてしまった。




−−−−




そのとき。






｢悩んでいるようだな、少年｣






男性じみた口調。
でも、その雰囲気を台無しにする程に高く澄んだ、声。でも、転校生の声は、もっと低い。

つまり……

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